ニチイ学館、MBOに見え隠れする「創業家の利益」 展開次第では「第2のユニゾ」化の可能性も

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そこで、関係者の間でささやかれているのが「相続対策」だ。というのも創業者の明彦氏が亡くなり、妻を始めとする創業系一族が200億円とも言われるニチイ学館株を相続しているからだ。

相続した持ち株を市場で売却すると株価は暴落してしまう。かといって自社株買いをしてしまうと創業家は大株主でなくなり、経営への影響力を失う。そこで、ベインの杉本氏に相談した結果、今回のスキームが出てきたわけだ。

このスキームであれば、TOBに応募することで保有株式を現金化することができる。相続税を払った後に、残った半分程度の資金を受け皿会社に出資することで創業家の影響力も残せる。さらに、明彦氏の妻は資産管理会社を譲渡するため、株式売却益に対する税金もかからないという、創業家のことを第一に考えたスキームだったのだ。

新型コロナで大混乱に陥っているタイミングで発表、TOBをスタートさせたことについても、「被相続人の死去から10カ月以内、つまり2020年7月に相続税の納税義務が発生するため、急いで株式を現金化するスキームを考えたのではないか」という見方が根強い。

ユニゾのようにTOB合戦の可能性も

それだけではない。今回、ニチイ学館は1株1500円でTOBを実施しているが、この価格についても「買い付け価格が安くなるよう、あえて新型コロナのタイミングを狙ったのではないか」との指摘がある。というのも、類似会社比較法やディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法など、M&A時によく使われる評価法でリムが分析したところ、「1株当たり2400円が妥当」という結果が出たからだ。

ベインがニチイ学館に正式な提案を行ったのは、まさに緊急事態宣言が発表された翌4月8日のこと。「業績も好調で、キャッシュフローも堅調なため、1月ごろまでは株価も堅調だった。そこで、買い付け価格を安くするため、あえて新型コロナに伴う株価下落のタイミングで価格を決定したのではないか」との見方があるのだ。

こうした見方に対し、ニチイ学館は「回答を差し控えさせていただく」とコメントしている。

価格の妥当性に関する判断については株主や関係者に譲るとして、2つの価格が提示されたことで、市場関係者からは「TOB合戦になったユニゾホールディングスの二の舞になる」との声があがっている。ユニゾでは投資ファンドが次々と参戦、TOB価格が何度も釣り上がり、激しいユニゾ争奪戦が繰り広げられた。

ニチイ学館をめぐっては、アクティビスト(物言う株主)のエフィッシモ・キャピタル・マネジメントがすでに参戦している。今後、TOB合戦の火ぶたが切られるかもしれない。

田島 靖久 東洋経済 記者

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たじま やすひさ / Yasuhisa Tajima

週刊東洋経済副編集長。大学卒業後、放送局に入社。記者として事件取材を担当後、出版社に入社。経済誌で流通、商社、銀行、不動産などを担当する傍ら特集制作に携わる。2020年11月に東洋経済新報社に入社、週刊東洋経済副編集長、報道部長を経て23年4月から現職。

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