ニチイ学館、MBOに見え隠れする「創業家の利益」 展開次第では「第2のユニゾ」化の可能性も
リム側が疑問視しているのは、まず買い手グループに、売り手である創業者一族や社長、ニチイ社外取締役であるベイン日本代表の杉本勇次氏が含まれており、利益相反に当たるのではないかということだ。特に、取締役である杉本氏が資金提供者になることは極めておかしいのではないかと主張する。
さらに、経済産業省が2019年6月に公表した「公正なM&Aの在り方に関する指針」にも反しているという。その1つが「マジョリティ・オブ・マイノリティ条件」が設定されていないこと。これは、MBOのように少数株主の利害が損なわれる恐れがある取引において、利害関係を有する大株主を除いた少数株主の中で、少なくとも過半数の応募をTOBの成立条件とするものだ。しかし、今回のスキームではこの条件は設定されていない。
なぜMBOに踏み切ったのか
また、取締役会が初めからベインの提案を採用、対抗的な買収提案が行われる機会を確保する「マーケット・チェック」を実施していない点や、MBOを実施するに当たって特別委員会が設置されているものの、独立したアドバイザーが不在で妥当性に関する意見「フェアネス・オピニオン」を求めていない点なども問題視している。
そのためリムは、TOBを延長してこうした点を解消するよう求めているが、今のところニチイ学館に動きはない。
ニチイ学館はなぜ、これだけ複雑なスキームのMBOを、しかも新型コロナで混乱しているさなかに行おうとしているのか。
ニチイ学館は、「介護や医療関連の市場で労働人口が減少する中、迅速な改革が必要」だが、「上場を維持したままで実施すれば、株主にマイナスの影響を及ぼす可能性も否定できない。そこで株主を公開買付者のみとし、従業員が一丸となって事業構造改革の実行などに取り組むことが最善との考えに至った」と説明している。しかし、この言葉を額面通り受け取る関係者は少ない。
というのも、新規事業である英会話教室やヘルスケア事業などは営業赤字だが、祖業の医療関連部門や主力の介護部門の業績は好調。2020年3月期は売上高が前期比3.5%増の2979億円、営業利益も同21.2%増の121億円だった。増収増益が続き、「業界の最大手が急いで非上場化を進める必要はない」(介護チェーン幹部)という声がもっぱらだ。
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