カシオ、6万円「電子ピアノ」で販売トップの理由 安価でコンパクト、「ついで買い」需要を喚起

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くしくも、今回のコロナ禍で休眠層が掘り起こされた。復帰後の手軽な楽器として手にしたのが、コンパクトな電子ピアノだった。

同じピアノでも本格的なアコースティックピアノは50万円以上で、高いものだと1000万円台の商品もある。設置時に調律が必要で、配送にも専門性が求められる。

これに対し、電子ピアノは数万円からと手ごろで、小型ゆえに配送や設置も容易だ。ネット通販などで手軽に購入でき、すぐに演奏できることから電子ピアノ人気に火がついた。

パソコン購入時に「ついで買い」も

カシオの松田氏は「コロナ前から徐々にカシオの電子ピアノは受け入れられていたが、コロナによる巣ごもり需要でわれわれの進めた手頃な価格や大きさを追求した戦略がヒットした」と自己分析する。楽器を習い始めた子ども向けの1万円台のエントリータイプのキーボードも好調といい、「在宅勤務用にPC周辺機器を買うとき、電子楽器を『ついで買い』するようなケースが起きている」(松田氏)。

元気を取り戻しつつあるカシオの楽器事業だが、最近までアナリストから「お荷物事業」と揶揄される存在だった。カシオは40年前に電子楽器に参入し、コンパクトで安価な電子キーボード「カシオトーン」などが爆発的にヒット。ライバル・ヤマハの音楽教室に通う生徒も次々と購入し、ヤマハが電子楽器に本腰を入れる契機にもなった。

その後、30万円以上の高級路線を志向したが、それが失敗。ラインナップを60にも増やしたことも重荷になった。2017年3月期にも楽器事業は13億円の赤字を出し、その後も赤字が続いていた。主力の「G-SHOCK」に代表される時計事業や、世界で年2000万台以上販売される関数電卓が15~20%程度の利益率なのに対し、楽器事業はカシオの業績の足を大きく引っ張った。

カシオは2018年3月期から改革を本格化させ、安さと使いやすさに「原点回帰」した。ラインナップを半減させてコストを削減。高級機ではなく、エントリー層向けの商品開発を強化した。サイズも小型化し、インテリア性を重視した結果が2019年発売の代表製品PX-S1000だ。

コロナ禍でコンサート開催にはまだ制約が多い中、今後はプロのピアニストらインフルエンサーを起用し、ネットと親和性が高いプロモーションを強化していく。「休眠層の復帰と合わせて、今後は楽器人口そのものをもう一度増やしていきたい」(松田氏)と話すなど、夢は広がっている。

劉 彦甫 東洋経済 記者

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りゅう いぇんふ / Yenfu LIU

解説部記者。台湾・中台関係を中心に国際政治やマクロ経済が専門。1994年台湾台北市生まれ、客家系。長崎県立佐世保南高校、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、修士(ジャーナリズム)。日本の台湾認識・言説を研究している。日本台湾教育支援研究者ネットワーク(SNET台湾)特別研究員。ピアノや旅行、映画・アニメが好き。

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