六ヶ所村、核燃再処理工場ゴーサインに疑問符 航空機墜落事故の評価と対策は甘すぎる

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再処理工場に航空機が墜落する確率について、日本原燃がF16を想定して一定の衝突対策を講じていることから、規制委員会はF16および墜落した場合の影響がF16と同等の戦闘機の事故発生確率について、年間の事故発生確率(4.6×10のマイナス8乗《1000万分の1原子炉・年》、ウラン・プルトニウム混合脱硝建屋に衝突した場合の想定)に10分の1の係数を乗じてよいとの見解を示した。つまり、日本原燃が一定の衝突対策を講じているので、墜落確率を引き下げた。

こうしたルールの緩和にも助けられ、日本原燃はF16について速度を引き上げたり、F35Aなどの大型戦闘機の評価を行わなくてよいなど、より厳格な衝突影響の評価実施を免れている。

旧科学技術庁のほうがまともだった?

こうしたやり方に問題はないのか。伊東弁護士は旧科学技術庁が1996年4月に出した「六ケ所再処理・廃棄物管理事業所における航空機に対する防護設計の再評価について」と題された文書に着目する。

日本原燃は規制委員会の審査において、同文書を引き合いに出しつつ、訓練飛行中の航空機の機種が新しく更新された場合には「再評価を行うことで施設の安全確保に支障がないことを報告書としてまとめている」などと述べている。つまり、再処理工場建設当初に想定した戦闘機が退役し、新たな戦闘機が配備された場合に墜落の影響をしっかり検証しているというのだ。条件設定が不十分であるものの、日本原燃はF16についても建屋に墜落した場合の評価を実施した。

その一方で、重量がF16の1.5倍に相当するF35Aが墜落した場合の影響については何の評価もしておらず、規制委員会もそうした日本原燃の姿勢を容認している。そのことは、更田委員長の「新規制基準は青天井を求めているわけではない」との発言からも明らかだ。

このような審査の実態をつぶさに検証したうえで、伊東弁護士は「規制委員会は日本原燃に助け舟を出している。原子力事業者の虜になっていたと国会事故調に批判された旧科学技術庁のほうがまだまともだったのではないか」と批判する。

規制委員会では、六ヶ所再処理工場の審査書案の内容に関する一般市民のパブリックコメントを6月12日まで受け付けている。再処理事業の必要性や地震や火山対策を含めて論点が多岐にわたる中、航空機事故への対応も焦点になる。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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