高雄市長解職であらわになった台湾社会の分断

リコール支持者にみる政治的対立の現実

戒厳令が1987年に解除され、民主化が本格的に進む1996年ごろまで、台湾では中国をベースとする教育が施されていた。高校の国語の授業は中国の古典が大部分を占め、副読本で中国文学や史学の概説を教えるものが使用されていた。

歴史や地理は中華民国時代の中国の歴史や地理が教えられ、中華民国の根本思想である「三民主義」が必修科目として存在していた。

一方、経済では「アジア四小龍」「NIES」と呼ばれるほど台湾は大きく飛躍し、この頃に学生や社会人だった世代は台湾を知る機会が少ないが、経済成長を日々実感できる時代環境にあった。

親子で政治スタンスに違い

たとえ熱狂的な韓粉でなくても、韓氏を支持していた層の多くは、実はこういった時期を過ごした世代が多い。かつての経済成長を感じたい、戒厳令下の安全な社会や政争が少ない政治の時代に戻りたいと願っている中高年世代が多い。韓氏の訴えもこの世代に響くものが多かった。

しかし、経済成長はいつまでも続くわけではない。民主化や台湾化が深化する一方で、経済成長は緩やかになり、少子高齢化が急速に進む中で社会のさまざまな構造改革を進めなければならなくなった。

一方、彼らの子どもの世代は、高度成長の時代を過ごしてきたわけではない。民主主義が深化し、かつてとは想像もできないほど多様な価値観を大切にする台湾で育った。現在の民進党などは、こうした若い世代の意見を多く取り入れており、親子で政治的スタンスが違う家庭が多いのだ。

日本人が友人同士や歓談の場であまり宗教の話をしないように、台湾社会でも親しい同士が政治の話をすることは少ない。台湾では長きにわたって戒厳令が存在したため、政治思想について厳しい取り締まりがあった。

人々は普段は政治から一定の距離を置いているが、意見の相違が明らかになると、それまでぐっと堪えていたエネルギーが爆発し、場合によっては激しい衝突を招く恐れがあったからである。

日本では台湾政治における民主化の成熟度ばかりに目が行きがちだ。だがその一方で、台湾人自身は政治によって分断された家庭や社会を、どのように修復し前進しようとしているのか。台湾の人々の努力と模索を知っておいたほうがいいだろう。

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