ポストコロナ「日米同盟に見えた大きな課題」 一段強化と依存できない分野の自立が必要だ

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とくにコロナ危機に乗じたサイバー攻撃に関しては、米英両政府が最新情勢に関する共同報告書を発表し、注意喚起している。ワクチン開発などの最新情報が狙われており、アメリカの国家防諜安全保障局は4月15日、中国政府系のハッカー集団「エレクトリック・パンダ」が、機密情報の取り扱い資格を持つ医療技術系のアメリカ企業38社にサイバー攻撃を行ったと警告している。

ハッカー集団が狙う対象は、日本を含む多数の国の医療機関・医薬品、バイオ技術等の広範な戦略的分野に及ぶ。5月27日、赤十字国際委員会は各国政府に対し、病院や医療施設を標的とするサイバー攻撃への対策の強化を求める書簡を公表した。攻撃情報の共有等の国際協力は進められているが、この手のサイバー対処は各国の責任である。日本にとって独自の能力強化が求められる喫緊の課題である。

日米同盟の再定義が必要

日米同盟は時代の変化に応じた再定義によって進化を続け、今や自由で開かれたインド太平洋の礎石として地域の安定を支えている。奇しくも60周年の節目に起きたコロナ危機は、同盟を原点に戻ってもう一度、再定義する必要性を突きつけている。

地経学的な米中対立の下では安保と経済の両立が重要だが、条約第2条にはすでに国際経済政策の整合と経済的協力の促進の規定がある。戦略物資の供給網から新興技術の管理など、2条関連の新たな課題は多い。必要条件としての日米同盟をさらに強化し、同盟に依存できない分野は自立した能力を保有する再定義が必要だ。

コロナ危機はパックス・アメリカーナの終焉を早めよう。ベトナム戦争の戦死者の2倍に迫る一般市民の犠牲は、アメリカ社会に大きな後遺症を残す。再選最優先のトランプ大統領は中国敵視政策によって支持率回復を図ろうとし、日本に対して同調とより大きな防衛負担を要求するであろう。

しかしそれは、コロナ危機で顕在化した多くの課題に日米が協力して取り組み、ポストコロナの日米同盟を構想するチャンスでもある。日本は新たな地経学的脅威に対する独自の対応力の強化も必要だ。日米共に長期化が予期される極めて厳しい資源制約を踏まえると、従来の計画や発想に縛られない新たな思考が求められている。

(尾上定正/アジア・パシフィック・イニシアティブ シニアフェロー、元空将)

地経学ブリーフィング

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『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

2023年9月18日をもって、東洋経済オンラインにおける地経学ブリーフィングの連載は終了しました。これ以降の連載につきましては、10月3日以降、地経学研究所Webサイトに掲載されますので、そちらをご参照ください。
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