コロナ危機を経てドル円はもっと動かなくなる FRBもYCCを採用し、日米金利差がなくなる

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2019年の夏場からすでに日米金利差とドル円相場は完全に別の道を歩き始めていた。今年2月から3月にかけてアメリカの金利が急落した際、円相場が対ドルで急伸したことでドル円相場の道標としての日米金利差が復権したかと思われたが、結局は日米金利差が大幅に縮小したほどにはドル円相場の水準調整は進まなかった。

こうした中で仮にFRBがYCCを導入するならば、日米金利差は完全に固定化されることになってしまう。もともと指摘されていたことではあるが、いよいよ金利という視点からドル円相場の現状や展望を語る意味は失われることになる。

「金利差の消滅」する世界では、いずれ成長率の差も小さくなって低位に収斂し、いずれ「物価差の消滅」に至ることが予想される。実際、すでに多くの先進国の物価が「0%~2%」に収まっており、よりバラツキのあったリーマンショック前の情勢からは大きな変化を感じる。「物価差の消滅」は購買力平価(PPP)から長期展望を語ることも難しくなる未来を意味する。

経常黒字、対外純債権国の通貨「円」の強さ

結局、金利や物価で為替の水準感を議論できなくなる未来では、過去にも増して国際収支統計に代表されるフロー、要するに需給の動向をつかむことが為替見通しを語るうえで重要になるのだろうか。

需給が重要であることは改めて強調するようなことではないのだが、「さまざまな角度から水準の検討が可能だった局面」から「(需給のような)数少ない角度からしか検討できない局面」に入っていくということになれば、国際収支統計やその積み上がりとしての対外資産・負債残高を分析することの重要性が相対的に高まることは確かなのだろう。

この点、依然として暦年で経常黒字を積み上げ、2019年末時点でも29年連続で世界最大の対外純債権国である日本「円」の立ち位置は引き続き尊重される。このことは先行きを展望するうえで大いに参考にすべき重要な論点だと筆者は考えている。

※本記事は個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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