北朝鮮「デノミ」実施は政治目的、すべては後継体制づくりのため

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金正日体制になってから毎年元日に発表される党・軍・青年団体機関紙による「共同社説」は、1年間の同国の国家運営を示す重要な資料。10年1月1日の共同社説には「人民生活の向上」が最初にうたわれた。この数年、従来のスターリン型とも言える重工業、国防経済優先路線から、今年は一転して軽工業と農業という、国民生活に密接な関係がある分野を重点課題として指摘している。

慶應義塾大学の礒崎敦仁専任講師は「衣食住を満ち足りたものにし、国民の民心を体制側に引きつけておくべきものがあるのだろう」という。それは、安定的な後継者づくり、ということだ。

礒崎氏はさらに、金正日総書記が後継者としての足場を固め始めた70年代と現在の状況を比べる表現が、今年の共同社説には含まれていると言う。金総書記の三男・ジョンウン氏が後継者の有力候補とされているいま、円滑に体制を後継者に渡すためには「できるだけ不安要素を取り除いておこう、という金総書記の“親心”」(礒崎氏)という説明だ。

デノミという経済的手段が、統治能力の確保、円滑な後継者体制づくりという主要な政治手段の隠れ蓑とされる。いかにも北朝鮮らしい。しかし、民心をつかめるほどの生活向上を図るためには、「対外市場を拡大して対外貿易活動を積極的に展開」(共同社説)することが不可欠になる。

体制護持を第一に、市場経済を取る外国との関係を深めなかった北朝鮮。対外貿易を積極的にできる自信があるのかどうか。その覚悟の度合いがわかるのは、今後の北朝鮮自身の出方次第だ。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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