「国家安全法」の背後にちらつく中国の脆弱さ

揺らぐ共産党一党支配、危機感ゆえの強硬策

4月に入ると一気に動き出した。13日に出先機関の主任が、立法会で審議中の中国国歌の侮辱を禁じる条例に絡めて、「民主派議員が職権を乱用している」などと、議員資格の取り消しを示唆する脅しをかけた。続く15日、やはり出先機関の幹部が「香港はできるだけ早期に国家安全条例の導入に向けた作業を開始すべきだ」と、北京政府の動きを予告するような発言をした。

4月18日には民主化運動の主要メンバーら15人が、2019年のデモを理由に一斉に逮捕された。さらに翌19日、香港政府が「(北京にある)中央政府の各部門は香港の事務に干渉できない」という香港基本法の規定について、「国の出先機関にはこの条例が適用されない」という新たな解釈を公表し、北京政府が香港の行政に介入できるという立場を示した。これも新法制定に向けた布石である。

王毅外相はどう正当化したのか

全人代の日程は4月下旬に決定され、5月22日からとなった。するとその前日、全人代の報道官が香港の国家安全を維持するための法律を審議すると記者会見で発言し、さらに全人代初日の22日、李克強首相が政府活動報告で具体的に説明したことで世界中が大騒ぎとなった。

ここまでを見ると、全人代開催までの期間を使って、民主派の動きを抑え込むとともに、香港政府が政府方針に従うよう環境を作るなど、中国政府の用意周到さがはっきりする。

次は中国政府の理屈である。香港は一国二制度のもとで「高度な自治」が認められている。中国本土の法律は香港には適用されないという原則があり、香港には外交や国防を除く分野で立法権が与えられている。今回の方針はこうした原則に反する。それをどう正当化するのか。5月24日に行われた王毅外相の会見で、中国が作り上げた理屈が明らかになった。

まず、国家の安全は中央政府の権限である。そして中央政府はすべての地方行政区域の国家安全に最終的責任を負っている。香港では2019年、独立組織や過激な分離勢力が猛威を振るい、暴力テロがエスカレートし、外部勢力がそれに不法に関与した。この結果、香港の動きは中国全体の国家安全に深刻な危害をもたらした。もはや国家安全のための法制度と執行メカニズムを確立することに一刻の猶予もない。

また、今回の全人代の決定は、国家安全に深刻な危害を及ぼす極めて少数の行為を対象にしており、香港の高度な自治に影響を与えず、香港住民の権利や自由に影響を与えない。外国の投資家の権益にも影響を与えない。法制度ができれば、むしろ一国二制度の維持に有利となる。王毅外相の説明を要約すると、以上のようになる。

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