「国家安全法」の背後にちらつく中国の脆弱さ 揺らぐ共産党一党支配、危機感ゆえの強硬策

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習近平国家主席の体制は盤石と言われているが、盤石ゆえに強硬路線を打ち出しているのではなく、現実はおそらくその逆で、中国共産党の一党支配の足元の揺らぎに対する危機感から強い姿勢に出ているのであろう。

中国共産党による一党支配は、民主主義的制度のもとで選挙などの手続きを経て、成り立っているのではない。ではその支配の正統性は何に依拠しているのか。

かつては太平洋戦争で日本に勝利したことや、国民党との内戦に勝利したことを掲げることができた。時代が変わると、改革開放政策による経済成長によって果実を生み出し、国民に配分することで正統性を主張できた。

民主化運動という悪夢

ところが、その経済成長が陰りを見せ始めると、国民の多くが情報化社会の進展で世界中の最先端の情報を手にすることができるようになってきた。国民の意見は多様化し、香港に限らず民主化を求める動きはじわじわと広がっている。そこに今回の新型コロナウイルス感染でマイナス成長を記録するなど、経済政策が生み出してきた正統性に揺らぎが出始めてきたのだ。

こうした状況の中で香港の問題は何としても抑え込まなければならない課題となった。今秋の立法会選挙で民主派勢力が多数派を占めることにでもなれば、香港から火がつき、民主化を求める動きが中国全土に広がるかもしれない。そんなことにでもなれば共産党支配の正統性はますます傷つく。党指導部にとってこれはもう悪夢でしかない。

一方で、国内向けに統治の正統性を維持するための今回の強硬策は、国際社会での中国の信頼性を損ねるばかりか、孤立化を決定的にし、それが中国経済の環境を悪化させかねない側面を持っている。

一党支配の正統性確保という中国共産党が避けることのできない体制の矛盾は、これからもますます中国を窮地に追い込んでいくだろう。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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