飲食店を「倒産」させるコロナより深刻な問題 NY名店オーナーが20年来の店をたたむ理由
ほとんどの従業員がホールに集合し、副料理長とラインコック長はビデオ通話アプリ「フェイスタイム」で会議に参加した。私は全員の目をまっすぐ見て伝えた。「様子を見るのは、やめにしました。ぜひ明日の朝一番に失業手当を申請してください。皆さんには1週間分の給与を支給します」。
ミーティングが終わった後、彼らは少しの間、店内をあてもなく動き回っていた。荷物をまとめるべきか? ナイフを握るべきか? 残って何か飲むべきか? 最後のディナー営業がまだ残っていたので、アシュリーと私、ジェネラル・マネージャーのアナ、そして誰からも慕われているラインコックのジェイクの4人で最後のシフトを終えた。何人かのスタッフは残って一緒に食事をし、店にお金を落としてくれた。
+50%のチップ
誰から聞いたのか、かつて当店で働いたことのあるスタッフが連絡してきて、普段は食べないような食事をオーダーしてくれた。例えば、博士課程に在籍中ずっとプルーンで給仕係を務め、今はアラバマ大学で心理学の助教授をしているローレン・コイスのオーダーは次のようなものだった。
エビとアンチョビ
カキフライ(「今夜のスペシャルメニュー」ということにして)
レオ・スティーン・ジュラシック・シュナン・ブラン
エイヒレ
トレヴィーゾ・サラダ
鴨脂で揚げたポテト
豆のブイヨンスープ
ブルトンバターケーキ
ブラックコーヒー 2つ
+50%のチップ
アシュリーはグリルと冷製前菜、バーと作業管理を担当した。アナは給仕とホスト役、そして電話対応を受け持ち、ジェイクは10台あるガスレンジをたった1人で切り盛りした。私は黄色いエプロンを着けて、皿洗い、テーブルの後片づけ、食器入れ運びを担当していたが、コイスの注文を耳にした時には涙が出た。レストラン業界ではよく「家族」という言葉が使われるが、これは理由のないことではない。売り上げは締めて1144ドルになった。
その晩、スタッフが帰宅する時、私たちは切なさと諦めの入り混じった不思議な表情で、部屋の反対側から手を振り合った。お互いに離れて行動しなくてはならないことにまだ慣れておらず、これからどうなるのか誰もまったくわかっていなかったからだ。
床のモップがけを残して、ガラス食器の入った最後のトレイを運んでいる時だった。アシュリーが身を乗り出して告げた。「ねえ、たった今、宣言が出たよ。デブラシオ市長よ。シャットダウンだって。あなたの方が5時間早かったね」。