本屋さんの空間を生かす人々が集う
「本屋さんという空間が好きなんですよね。理由はわからないけど、この感じが好き」
先日、代官山 蔦屋書店の2階で、「『モノを売る』を超えた新しい店舗の未来像とは?」というテーマの下、「マザーハウスカレッジ」というイベントを開催しました。代官山 蔦屋書店店長の上田元治さんとの対談をベースに、代官山 蔦屋書店そのものに関する議論を通して、新しい店舗のあり方を見つけていこうという趣旨です。
最初に、参加されたお客様がおっしゃっていた言葉で印象に残ったのは、「本屋さんという空間が好き」ということ。私たち30代以上の世代は、小さい頃からネットに触れていたわけではなく、情報はテレビなどのマスメディアか、書店や図書館で本を探して得るものでした。そんな小さい頃から身近な存在であった書店という響きに対して、特に理由もなく書店という空間が落ち着く、そんなノスタルジー(望郷観)がある方も多いのです。
書店として、このノスタルジーを生かさない手はないのですが、1時間書店にいて必ず本を買うかというと……。結局、立ち読みして何も買わずに帰る、という方も多くいるのではないかと思います。書店は本を売るのが商売ですから、これではビジネスは成り立たないわけです。
「よく言われることは、時間消費みたいなこと。この時間消費に対して、入場料をいただくことができればいいのですが、そういうわけにはいかない。ビジネスとして成立するためには、どこにおカネを落としていただくポイントを作るかというのは、いつも悩んでいるところですね」
と、代官山 蔦屋書店の上田元治店長は言います。
代官山 蔦屋書店のひとつの特徴は、時間消費、空間を商品として楽しんでもらうという点から、1階にはスターバックスがあり、2階の中心には「Anjin」というラウンジがあったりと、カフェを中心においた店作りしています。そして、スターバックスで買ったコーヒーは、フリースペースが多数設置されている広い店内のどこで飲んでもいいということになっています。
最近では、本を座って読むことができるフリースペースや、カフェin ブックストアという業態は珍しくない、と思われる方もいらっしゃると思います。ただ、この代官山 蔦屋書店の場合、書店にカフェがあるというよりも、カフェに本が並んでいる、というイメージに近いのです。というのも、逆に、店内各所に散りばめられたカフェ席にいたい場合には、スターバックスのコーヒーを頼まないといけない、ワンドリンク制のような形になっているのです。これは上田さんがお話されていた「入場料」という概念に近いのかもしれません。
またカフェビジネスを考えても、その制約は席数でキャパシティが決まってしまうことですが、広大な書店すべてが席であると考えると、そのキャパシティの制約を外すことができます。カフェという視点からビジネスを考えると、その課題を乗り越えた形であるといえるのです。
実際、土日にお店に行ってみると、書籍がテーマごとに分けて置かれた店内は、それぞれのテーマの本とスターバックスのコーヒーを持った人であふれています。また平日夜には、プレゼンテーション資料の作成や、ブレインストーミングをしているビジネスパーソンが店内のいたるところで目につきます。私のように意思が弱く、なかなか家で仕事が進まない人にもピッタリの場所になっています。
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