世界の通勤事情、日本で役立つアイデアあるか 車内デザイン、バスの活用など世界に学ぶ

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人口は多いが都市生活者と農村生活者がきっぱり分かれているのが中国である。電車通勤の歴史は浅く、上海の地下鉄開業は1993年と新しい。

中国に限らず、日本と海外の大きな違いとして、日本は地下鉄、大手私鉄、JRのすべてが通勤輸送を行うが、世界には日本の大手私鉄のような存在はない。そして中国では国鉄は長距離で利用するもので通勤輸送はまったく行っておらず、通勤型の電車はない。つまり通勤電車は地下鉄のみである。

上海地下鉄の総延長は676km、東京メトロと東京都営地下鉄を合わせた距離の304kmの2倍以上ある。しかし、上海と東京の通勤電車を比較するなら、東京の場合は地下鉄が乗り入れる私鉄やJRの終点までをプラスしなければならない。

そもそも日本の大手私鉄は、社名のごとく、京王電鉄でいえば東京と八王子を結ぶ。小田急電鉄の創立時は小田原急行鉄道といい、東京と小田原を結ぶ都市間鉄道であったし、京成電鉄は東京と成田を結び、成田山新勝寺へお参りするという意味合いの強い鉄道であった。通勤輸送はその後の話である。そのため古くから快速や急行があり、新宿から小田原まで各駅停車に乗る人はいないであろう。

ところが中国の地下鉄は地上に出てからも、基本的に急行運転などはない。各駅停車のみなので終点まではかなりの時間を要する。都市間鉄道ではないので終点が近づくと農村風景だったりする。その点、日本は都市間鉄道が通勤路線となったので、かなり遠い郊外からも通勤急行などを使えば通勤圏となったという構図がある。

急行運転の需要がない

中国では急行運転の需要も発生しない。もし急行ができて、都心から遠くのほうが都心への所要時間が短くなったら「都心近くに家を購入した意味がない」といったクレームが出るであろう。

混雑する時間帯はしばしば入場規制も行われる。駅では手荷物検査が行われ、私も何度か改札口手前で足止めとなり「これじゃ電車もかなり混んでいる」と思うのだが、ホームへ行くと意外と空いていたりする。「混雑」の許容範囲が日本とは異なるのだ。

むしろ深刻なのは交通渋滞で、裕福になると自動車を購入、自動車通勤に切り替えるからだ。東京圏では自動車があっても通勤には使わない人が多いが、中国人から見ると「何のために自動車を購入したのか?」と不思議に感じるようだ。

中国は都市人口が多いものの、ここまでが通勤圏という限界線があるように見える。しかし、東京は都心から離れても横浜、八王子、さいたま、千葉……、新たな都市が現れて、それらが東京への通勤圏なので限りがないような構成になっている。冒頭に関西の混雑度は東京ほどではないと記したが、京阪神という言葉があるように、京都や神戸は大阪のベッドタウンではなく、求心力のある都市になっているからである。

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