世界の通勤事情、日本で役立つアイデアあるか 車内デザイン、バスの活用など世界に学ぶ

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ソウルの地下鉄は距離が長く、日本同様に混雑も激しい。高齢者を敬う習慣が根付き、目上の人が乗って来たら席を譲るのは当然である。若者が高齢者に席を譲るだけでなく、60歳くらいの人が乗ってきたら50歳くらいの人は席を譲り、70歳くらいの人が乗ってきたら60歳くらいの人も席を譲るという習慣なので、働き盛りの人が座れる可能性が低い。

ところが、日本の通勤ライナーの役割を赤い色の快速バスが果たしている。ソウルでは青いバスが市内の幹線、緑のバスが市内の支線、赤いバスが郊外路線と色分けされている。赤い郊外路線は着席バスともいわれ、定員制、ドアが1カ所の長距離タイプの車両で運行する。郊外から都心へ、通勤時間帯だけでなく、終日ノンストップ運行する。韓国は一般に道路が広いのと、都心部ではバス専用レーンが徹底しているので成り立つのだ。

日本でも千葉方面から東京駅、岐阜県から名古屋、筑豊地区から福岡などへの通勤高速バスがあるが、いずれも鉄道が不便な地域ばかりである。しかし、ソウルではずばり鉄道と並行して走っている。日本でいう深夜バスが終日走っている感覚である。

2階建てバスで全員着席

通勤快速バスはシンガポールや香港にも多く、2階建て車両で全員着席して運行する。混雑時には続行便があり、続行便はIC定期券のみ利用できるという便もある。日本は交通渋滞、定時制への欲求が高い、運転手不足などから難しい面もあるが、電車の補助として活用できないであろうか。大気汚染も心配されるが、海外のバスは低公害化がずいぶん進んでいる。中国の深圳では路線バス全車が電気モーター駆動となった。しかもエンジンで発電するのではなく充電式である。

一般に、日本は鉄道車両技術が発達しているが、通勤に2階建てバスを利用するといった発想はないし、連節バスもいまだに特殊な車両と思われている。

ヨーロッパでは2車体連節どころか3車体連節バスも多い。日本は現金でも乗車できる反面、運賃授受に時間がかかり、定員の多いバスが普及していない。しかし、切符所持が信用制のヨーロッパでは、3車体連節車でも広いドアが一斉に開いて乗降するので、バスが極めてスムーズだ。入り口と出口は分かれていない。

これらバスが発達している国は、道路の運用も優れていて、公共交通機関専用レーンが徹底しているほか、路面電車と同じ事業体がバスを運行し、電車の駅にもバスが進入できるなど、バスが公共交通としての大きな権限を与えられている。

日本は鉄道が時間に正確な交通機関とされている反面、バスの地位が低いということも認識しなくてはならない。海外と日本の通勤事情を比べて鮮明になるのは、交通事業者側で改善できる点はほとんど残っていないということであろうか。より一層の仕事スタイルの改革や都市機能の分散化が必要になるだろう。

谷川 一巳 交通ライター

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たにがわ ひとみ / Hitomi Tanigawa

1958年横浜市生まれ。日本大学卒業。旅行会社勤務を経てフリーライターに。雑誌、書籍で世界の公共交通機関や旅行に関して執筆する。国鉄時代に日本の私鉄を含む鉄道すべてに乗車。また、利用した海外の鉄道は40カ国以上の路線に及ぶ。おもな著書に『割引切符でめぐるローカル線の旅』『鉄道で楽しむアジアの旅』『ニッポン 鉄道の旅68選』(以上、平凡社新書)などがある。

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