北海道新幹線vs.JR貨物「青函共用問題」の核心 一時は貨物が青函から撤退、船舶輸送構想も

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しかも、北海道における物流の特徴として、道内で完結する輸送はきわめて少なく、ほぼ100%が本州と跨っている。したがって、青函を挟んだ輸送のキャパシティ不足はそのまま道内生活への影響が大となる。加えて、現状の北海道発着の航路は関西圏までであり、中国・四国・九州方面に届いていない。したがって以遠をトラックに切り替えるか鉄道に引き継ぐ方法もあるが、モードが複数化すれば積み替えの手間は増え、コストは高くなる。一方、関東と東海地方については海上輸送がコストダウンになる、とレポートには記載されていた。

この報告に反応したのが、JA(農協)であった。7月、道新は「JAグループ北海道、経済同友会と意見交換」と報じた。「JA貨物列車維持協力を要請」との記事もある。すなわち、JA北海道中央会の飛田稔章会長が経済同友会と意見交換したことが「青函間が鉄道貨物のミッシングリンクになることは北海道農業において死活問題」と報じられた。道内のこととして捉えられていたのか、あまり表立って語られることはなかった危機感が、これによって経済界全体に伝えられた。

8月、ホクレン(JAグループの北海道における連合会団体)は、東京で100周年行事を開催しているが、その際にも青函共用走行がなくなった場合の影響について講演がなされている。これだけ生産性向上が言われている時代に鉄道貨物のネットワークを寸断させることは、すなわち幹線物流が人手の問題に突き当たって必然的に生産性低下につながることであり、時代に逆行するではないか、というのがJAの主張であった。

貨物列車全面撤退は断念

こうした内容が事態を大きく動かしたようだ。道新は、5月末の報道から一転して、2019年8月下旬、「青函貨物の全面撤退断念」と報じた。国土交通省は2030年度末の北海道新幹線札幌延伸時の高速化に向けて、青函トンネル前後での貨物列車の全面撤退案を断念し、一定程度残す方向で検討、というものであった。先の省内の検討会は、検討チームから上のレベルに持ち上がることなく開催は途絶えている。これが、「断念」と表現された理由であろう。したがって現在のところ、札幌開業時も共用走行により鉄道貨物輸送は残ると捉えてよい状況になっている。

実際のところ、JR北海道が手掛けていた“TonT”も苗穂工場内にデモンストレーション用の編成が用意されたものの、その後はJR北海道の経営問題も絡んで、まったく音沙汰がなくなってしまった。これも事実上、断念らしい。

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