北海道新幹線vs.JR貨物「青函共用問題」の核心 一時は貨物が青函から撤退、船舶輸送構想も
この検討を約1年かけて行った後、予定では2019年秋に一段レベルを上げて、北海道新幹線、JR北海道とJR貨物の経営、貨物鉄道関係事業者(トラック等利用運送事業者ほか)、並行在来線事業者(道南いさりび鉄道やIGRいわて銀河鉄道、青い森鉄道)、並行在来線五稜郭ー長万部間の存廃、荷主、本州・北海道間の観光列車、北海道の人々の暮らしや産業にいたるまで、さまざまな観点から影響を議論し、共用走行区間の維持、廃止、一部存置のそれぞれの考え方を整理。そして2020年秋、交通政策審議会に諮問するスケジュールを立てていたようだ。
ところが実際の検討は、中途で終わってしまった。それは、2019年5月の道新の報道「青函貨物廃止で道内1462億円損失」が引き金になっている。
国の検討と並行して、自らの影響が大きいJR貨物は、独自にみずほ総研に委託して調査を行っていた。その結果、貨物列車が担っている分の物流を他のモードに移そうとしても、その能力不足により道内に損失を与える、という結論だったのである。
北海道経済は1400億円超の損失
現在、道内には札幌貨物ターミナルを筆頭に14カ所(臨時扱いは除く)の貨物駅が点在している。そのため道内各地とのトラック輸送距離は、長くてもおおむね50km程度ですんでいる。ところが海運にすると、例えば道東やオホーツク沿岸のエリアから苫小牧港まで片道300km内外のトラック輸送が必要になり、往復で600〜700kmを走行するケースも生じる。
ドライバー不足の現状、鉄道で輸送している470〜480万トンをすべて海運に移したとすると、繁忙期に道内で700人、道外で1550人、閑散期でも道内で350人、道外で800人の新たなドライバーが必要になる。いわゆる「ラストマイル」の輸送が最大のネックとして浮かび上がった。さらに、新たに3000トン級のRORO船(フェリー型貨物船)6隻も必要と計算された。結果、それらが整わず輸送ができなくなると、道内経済は1462億円の損失を被るとレポートされた。
ちなみに国土交通省は、北海道ー本州間の物流のうち鉄道輸送の分担率は約1割であり、現状の480万トンの貨物は船を新造しないでも輸送できると計算していた。しかし、どうもそれは通年平均であった。
北海道から本州に向けた物流の最大の品目は農産品であり、それには旬の時期がある。物流企業としてのJR貨物は輸送の平均化を図るために保冷備蓄倉庫も手掛けているものの、旬にこそ高値で取引される生鮮品は寝かせておくことを嫌う。したがって、繁忙期の荷を船の閑散期に回すことができない。対する本州から北海道に向けた輸送品目は食料品や宅配便を中心に通年であり、こちらは安定しているものの速達性、定時性が求められ、トラック問題についてはいかんともしがたい。
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