メガバンク、「脱炭素化」に大きく舵を切る理由 投融資方針を相次ぎ転換、抜け道の批判も

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新たな方針を実施する6月1日を待たずに、石炭火力発電プロジェクトへの新規融資を決めることになれば、みずほは厳しい批判にさらされる可能性が高い。

気候ネットワークは3月16日、「気候関連リスクおよびパリ協定の目標に整合した投資を行うための計画の開示」を求める株主提案をみずほに提出した。気候ネットワークは、その後のみずほによる石炭火力発電への投融資厳格化を評価しつつも、「パリ協定との整合性が不明確であること」を理由に、株主提案を取り下げない方針だ。

欧州はグリーンリカバリーの流れに

冒頭に触れたように、みずほは現在、約3000億円かかるとされる石炭火力発電所向けの与信残高を2030年度までに半減させ、2050年度までにゼロとする方針だ。しかし、パリ協定で盛り込まれた世界の平均気温上昇を2℃以内に抑える目標を達成するには「2050年度まで残高が残るという選択肢はありえない」(平田氏)。

しかも、みずほが開示した石炭火力発電所向け与信残高は、石炭火力発電に使途を限定したプロジェクトファイナンスの残高であり、そこには資金使途を限定しない電力会社向けの通常の融資や電力債の引き受けは含まれていない。そうした形態での投融資については石炭火力発電向けの金額算定が難しいこともあり、みずほは削減目標を示していない。

RANのハイネケン氏は、三井住友が示した投融資方針について、「森林や石油・ガスなど各セクターでどのようなリスクがあるかを示したことは評価できるが、『森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ』の遵守までは求めておらず、石油・ガスセクターではどのような場合に投融資を行わないかが明示されていない」と指摘する。

【2020年5月16日18時30分追記】初出時のハイネケン氏のコメントを表記のように追加・修正いたします。

三菱UFJの新方針についても、石炭火力発電に関する対応方針に変化が見られないことなどを理由に、国際環境NGOからは「失望を禁じえない」(NGO350.org JAPANの横山隆美代表)といった声があがっている。

現在、金融界は新型コロナ対応にかかりきりだが、経済復興の過程において、CO2排出量の多いエネルギー使用を再び増やすことは脱炭素化の方向性と相容れない。パリ協定を重視するヨーロッパなどでは、「グリーンリカバリー」(化石燃料中心のエネルギーから、再生可能エネルギーなど温室効果ガス排出を伴わないエネルギーへのシフトを通じた経済復興)の必要性が提唱されている。

日本がコロナ後を見据えて、脱炭素化を視野に入れた経済改革を進めるうえで、メガバンクの役割と責任はきわめて大きい。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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