工作機械業界が迎えた転機、生産高世界一に陰り

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 受注激減の工作機械業界に久々の朗報が流れた。日本工作機械工業会によると11月の海外受注は前年同月比20%増の321億円で、実に18カ月ぶりの好転。中国などアジアが牽引し、前月比でも3%増と小幅ながら3カ月連続プラスとなった。

しかし業界関係者の表情は冴えない。相変わらず自動車向けなど内需が前年同月比39%減の153億円と不振。内外需総額では同8%減の474億円と、この18カ月間、前年割れが止まらない。

1月の内外需総額190億円(前年同月比84%減)から倍以上まで戻してはいる。が、「海外でのスポット受注が中心で顕著な回復とは言いがたい」(工業会の中村健一会長)。年間受注額が4000億円に届くか危ぶまれる2009年は、08年の7割減という惨状。まして過去最高の1・6兆円を記録した07年とは比べるべくもない。

オークマや森精機製作所など多くの企業は09年度、赤字に転落する。各社とも非正社員削減や社員給与の圧縮など体質改善に躍起だ。しかし、限られた市場で欧州勢や韓国・台湾勢と競争が激化する中、円高などで受注回復が鈍れば10年度の黒字化も微妙になる。

さらに27年続いた生産高世界一の座まで、09年は中国に奪われるおそれが浮上。日本の工作機械業界は一つの転機を迎えている。

円高で顧客の海外生産が進めば内需依存経営は縮小必至。世界最大の工作機械需要国でもある中国は希望の星だが、政府が国産機育成に積極的で必ずしも楽な市場ではない。工業会はBRICsの次に期待されるVISTA(ベトナム、インドネシア、南アフリカ、トルコ、アルゼンチン)や北アフリカで市場調査を行うなど懸命だ。

当然、米欧の行方も焦点。米ボーイングが15日、遅れに遅れた最新中型機787の初飛行に成功したのは「商談のテンポが上がる」(牧野二郎・牧野フライス製作所社長)など大きな好材料の1つだろう。

10年について「どれくらいよくなるか見えない」と中村会長は慎重。ただ近年5割だった外需比率は11月に68%まで高まり、今後さらに強まることだけは明らか。「07年の水準に戻るには4~5年かかる」(中堅メーカー)との声さえ外需頼みの色彩が濃く、海外対応の成否が日本勢の命運を左右しそうだ。

(内田史信 =週刊東洋経済)

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