今こそ「両利きの経営」が切実に問われる理由 ポストコロナのイノベーション論はこれだ

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「イノベーションストリーム」は、「市場」と「組織能力」の2軸のマトリクスで図示される。市場は「既存市場」と「新規市場」、組織能力は「既存組織能力」「新規組織能力」に分けられ、4象限でプロットや方向性が検討される。具体的には航空会社からフィルムメーカー、タイヤ会社まで、いろいろな企業や業界がこれで分析されている。

また、やや専門的にいえば、新規組織能力が必要だという結論になった場合は、ここから例えば組織開発(OD)などの議論につながっていく。

「VSRプロセス」は、「多様性(variation)」「選択(selection)」「維持(retention)」という進化論的な枠組みで、社内のイノベーションのプロセスに関して必要な実務的な内容を説明している。このあたりは豊富な企業事例とともに概観しつつ、自社に当てはまりやすいケースを参考にするといいだろう。

数多い事例の中でも、どのような企業のビジネスパーソンであっても見るべきケースとしては、アマゾンと富士フイルムをお勧めしておきたい。

アマゾンはメガベンチャーとしていかに「探索」から「深化」そして「探索」というスパイラルを回し巨大に成長してきたか、富士フイルム(くしくも、今はアビガンで注目されているが)は大企業メーカーがいかに時代の大変化のなか科学技術企業として変革できたかの顕著な例として特徴的であり、その2つを見ておくだけでも大きな示唆が得られるだろう。

「両利き」を可能にする経営者のリーダーシップ

組織論的にいえば、水と油であり反目しやすい両チームを自社のパワーの源泉としていくには、言うまでもなく経営陣のリーダーシップが必要である。時に割って入り、時にお互いを鼓舞する、絶妙の「まとめ、導く」感覚が重要となる。

例えば、両チームの対立が最も顕著になる瞬間は、「探索」チームの試みが成功するまさにその直前であるという。「深化」チームの生存本能が覚醒し、多数派としてパワープレー的な批判を「探索」チームに仕掛ける、その調停は経営チームにしかなしえない。

いろいろな困難は厳然として存在するとはいえ、逆にいえばその試みの報酬として「永続する企業のパワー」を得ることができるのであれば、その苦労はしがいのあるリーズナブルなものかもしれない。

このように、「両利き」という概念は古くて新しいが、いま非常に注目されているものでもある。とくに「ポストコロナ」時代のビジネス環境の大転換を見据えて座右に置きつつ、折に触れて実務と枠組みの間を往復し確認したい、イノベーション経営論の新定番である。

佐々木 一寿 経済評論家、作家

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ささき かずとし / Kazutoshi Sasaki

横浜国立大学経済学部国際経済学科卒業、大手メディアグループの経済系・報道系記者・編集者、ビジネス・スクール研究員/出版局編集委員、民間企業研究所にて経済学、経営学、社会学、心理学、行動科学の研究に従事。著書に『経済学的にありえない。』(日本経済新聞出版社刊)などがある。

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