三越伊勢丹、百貨店大手で唯一赤字の根本原因 都心主力店に集中、コロナ禍で「吉」と出るか

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だが、三越伊勢丹の経営に詳しいアパレル関係者は新体制の狙いを次のように読む。

「1000億円超の売り上げがある新宿と日本橋はこれまで通り、経営資源を重点投資する一方、銀座はこれまで本部が担ってきた仕入れや販促施策などの権限を店舗側に委譲する。新宿や日本橋にもない実験的な意味合いが強いが、このような権限移譲がうまく機能すれば基幹店以外の店舗にも移植していくかもしれない」

両本店以外の店舗は、地域事情に応じて運営を強化していく可能性があるというわけだ。ひいては、主力店舗に過度に偏重する経営構造の見直しにつながるかもしれない。

外商制度のデジタル化も加速

デジタル化も加速させる。同社は長年、「お帳場」と呼ぶ富裕層や優良顧客に対する手厚いサービスや、富裕層などの自宅を訪れて商品を提案・販売する「外商制度」を武器としてきた。これにデジタル技術を掛け合わせ、「シームレスなサービス」(三越伊勢丹HDの杉江俊彦社長)を展開していく。

まずは2021年3月期の早い時期から、ネット上での取扱商品数を現在の約3倍となる20万種類に増やし、基幹店などで販売している化粧品や衣料品などの商品をネット上で取り扱う。同時に、複数あったスマートフォンアプリを1つに統合し、店舗でのお薦め商品や文化催事などのイベント情報を確認できるようにする。

三越伊勢丹は首都圏店舗の比重が高く、潜在需要が底堅い富裕層を中心顧客としている。コロナ収束後の回復は同業他社より早いかもしれない。ただ、「コロナ後」は消費者の購買行動が一段と変化する可能性もある。

江戸時代の呉服屋を起源とし、およそ400年の歴史を持つ三越伊勢丹は、関東大震災や第2次世界大戦など数々の混乱期を乗り越えてきた。しかし、コロナ後は、かつてないほどに難しい舵取りが迫られそうだ。

梅咲 恵司 東洋経済 記者

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うめさき けいじ / Keiji Umesaki

ゼネコン・建設業界を担当。過去に小売り、不動産、精密業界などを担当。『週刊東洋経済』臨時増刊号「名古屋臨増2017年版」編集長。著書に『百貨店・デパート興亡史』(イースト・プレス)。

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