コロナの影響を見誤りかねない商業動態統計

政府統計の「過去は不変」という縛りは問題だ

毎月勤労統計で起点が更新されたのは、サンプル調査に基づく業種別・規模別の平均賃金を加重平均する際に用いる総労働者数だ。起点の値に前月比をかけて推計を延ばしている。

2018年1月以降、推計の起点を2009年時点から2014年時点へと更新すると、賃金水準の低い小規模事業所の労働者数の割合が低下したため、平均賃金が上振れした。本来は徐々に起こっていた構造変化による影響が、一度に反映されたのだ。

毎月勤労統計を作成する厚生労働省には、「過去の賃金の伸びを変えるべからず」という縛りが生じてもおかしくない出来事があった。2015年4月にサンプル入れ替えに伴う遡及改定を行ったところ、アベノミクス以降の13〜14年の賃金上昇率が押し下げられたため、過去を変える統計手法がやり玉にあがったのだ。そこで、サンプルを一度に入れ替える代わりに、部分的に入れ替えることで段差を抑え、遡及改定は行わないこととした。

ただ、起点の更新による遡及改定は本来、別の話。サンプルの部分入れ替えへの変更を後押しした統計委員会も、起点の更新については、遡及改定を行う方針を示した。ところが、毎月勤労統計でも商業動態統計でも、特殊事情を理由にこの方針はなし崩しとなっている。

遡及改定を好まない声は、エコノミストの中にもあるようだ。その時々で公表された数値に基づいて経済動向を分析しているのに、あとから前提が変わってしまうからだ。

商業動態統計の担当者も、遡及改定しない「水準の調整」について方針が決まった昨年7月、「今はプラスマイナス0.1%の動きで小売業販売額の基調判断の表現を変えるほど、微妙な数字で判断をしている。過去の数字自体を変えることはミスリードになる」と説明した。

だが、ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査部長は「より実態に近い数字が後から分かれば、分析を修正していけばよい。それに、統計を作成する側が結果に対する判断を示すべきではない」と批判する。

日銀の消費活動指数にも影響

コロナ下の消費の動向を捉えるうえでは、小売とあわせて、サービス業も注視される。外食が急減する一方、スーパーの食材販売が伸びる状況にあり、両方をあわせて消費の動向をつかむ必要がある。その点で注目されるのが、日本銀行が小売とサービスをあわせて作成している消費活動指数だ。総務省の家計調査より公表時期が早いうえ、需要サイドではなく、供給側の各種統計を用いて算出するため精度が高い。

実は消費活動指数では、商業動態統計から採用する機械器具小売業の販売額について、2018年4月の段階で、全数調査の統計に水準をあわせ、過去にさかのぼって値の見直しを行っている。

この消費活動指数、日本銀行は3月分の公表日を当初の5月12日から6月5日へと延期することを5月1日夕に発表した。理由は「第3次(サービス)産業活動指数の基準改定および商業動態統計の改正を踏まえた対応を行うため」。サービス産業活動指数でも4月発表の2月分から、指数化の際の基準が切り替わっている。

コロナショックに消費をめぐる統計の算出方法の変更がちょうど重なる事態となった。統計の分析にはいっそうの慎重さが求められている。

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