また、イタリアのラクイア地震(2009年)やアマトリーチェ地震(2016年)では、テントやベッドよりトイレが先にできたという避難所もあった。衛生的なトレイはそれほど重要なわけである。
ひるがえって日本の避難所の場合、食事は寝る場所と一緒、ということがほとんどだ。これは衛生面で大きな問題がある。トイレは、内閣府の避難所運営ガイドラインでは、急性期避難所は50人に1個のトイレという割合だ(慢性期には20人に1個)。
感染予防には手を洗うことも重要なため、断水や停電が起こった際に、水をどうやって確保するのか真剣に考えなければならない。なぜなら自治体、自衛隊が給水車で水を持ってくるには時間がかかるからである。
欧米のように備蓄する必要がある
以上のように、現在の日本の避難所では、新型コロナの感染予防が著しく困難なことがわかる。今後欧米基準に改善することが急務だが、そのためにはまず、欧米がしているような、テント、トイレ、ベッド、キッチンコンテナなどの大量の備蓄が必要だ。災害が多い国では人口の0.5%分のベッド、テント、毛布、暖房器具などを備蓄しており、例えば人口約500万人のイタリア・シチリアでは、15万人分の備蓄をしている。
一方、日本は災害が発生してから必要な物資を「市場や流通経路で集めて準備する」という流通備蓄の考えに基づいて行動している唯一の先進国である。急性避難期における日本のトレイの数は50人に1個と前述したが、トイレも備蓄ではなく、周辺の工事現場で使われているものを避難所に持っていくというやり方のため、数も足りなければ、時間もかかるというわけだ。
また、災害発生時に地元自治体職員が自らも被災者であるにもかかわらず、災害対応を余儀なくされるのも日本だけである。これを避けるためには、被災した自治体そして被災者も、早期からほかの都道府県や、災害ボランティアの支援を積極的に受け入れる必要がある(災害時に被災県内の支援だけ受け入れるという文言が多く見られる)。
最後に首都直下地震や南海トラフ津波地震が起きた場合、行政職員などだけでは災害対応する人手が絶望的に足りない。関東全体に被災が及んだときに誰が実際に救助・支援できるのか。市役所、警察、消防、自衛隊などがすぐに支援に来てくれるのか。食料・水は流通備蓄だけで足りるか。
新型コロナ禍で災害対応は複雑かつ困難なものになるのは確実だが、しかしその前に巨大地震後、巨大津波後の避難生活がどうなるのか、このままでいいのかという問題があることを忘れてはいけない。
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