「安倍×星野源コラボ」国民の怒りを買った理由 犬と戯れる首相の動画はなぜ炎上したのか

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こういったどこか浮世離れしているところが「ルイ16世」と叩かれる理由なのでしょう。ほかの国を見てみると、ドイツのメルケル首相にしても、イタリアのコンテ首相やフランスのマクロン大統領にしても、コロナウイルスという猛威を前に「流行りの芸能人に便乗して、首相としての株を上げよう」という発想を持つ人はいません。

そう考えると、動画の内容だけではなく「動画から伝わってくるもの」が炎上の主因だといえそうです。「国民が苦しんでいる中、こんな動画を上げるのはまずいですよ」と助言をする側近はいなかったのだろうか、と心配になってしまいます。もしかしたらルイ16世というよりも、裸の王様なのかもしれません。

どうすれば炎上を防げた?

芸術家(ミュージシャン)である星野源さんの動画をシェアをする一方で、安倍首相は新型コロナウイルスの蔓延によって収入が激減した芸術家の補償をしていません。外出を自粛すれば当然家の中で過ごす時間が増えるわけですが、その時間を豊かにしてくれるのは紛れもなく芸術家の人々です。

「本を読むこと」「音楽を聴くこと」「ユーチューブの動画を楽しむこと」「テレビを見ること」は当たり前のことのようで、その裏には言うまでもなく、それらの芸術の分野で「生活」している人がいます。

筆者の母国のドイツではグリュッタース文化大臣が「われわれは、現在の状況にあって、文化はよき時代においてのみ享受される贅沢品などではない、と認識しています。われわれは、自己責任ではない困窮や困難に対応し、これを救済しなくてはなりません。これは、経済的な救済であるだけなく、中止・キャンセルによって激しく揺さぶられている文化の世界を救うことでもあるのです。文化・クリエーティブ・メディア業界の人を見殺しにすることはいたしません」と語り、実際にフリーランサーを含むアーティスト等に約500億ユーロ(約5.9兆円)の支援がなされています。

日本でも多くのメディアで報じられたように、ベルリンではオンラインでの申請から2日後に約60万円に該当する金額を受け取った日本人芸術家もいます。

このように芸術家に対して手厚い救済をしたうえで、家でリラックスする動画を上げていたなら、「ああ首相も人間なんだな。しっかり働いた後は家でリラックスすることもあるんだな」と微笑ましい気持ちで動画を見られたのではないでしょうか。

サンドラ・ヘフェリン コラムニスト

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Sandra Haefelin

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴20年。 日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフといじめ問題」「バイリンガル教育について」など、多文化共生をテーマに執筆活動をしている。著書に『ハーフが美人なんて妄想ですから!!』(中公新書ラクレ)、『ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(ヒラマツオとの共著/メディアファクトリー)など著書多数。

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