花見できない弘前…新幹線青森開業10年目の涙 新型コロナが青森県内有数の観光都市に影響

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弘前さくらまつりは2020年、第100回の節目を迎える。同じく中止が決まった弘前ねぷたまつりと並び、出店業者や市内の飲食・宿泊業界の生命線と言えるイベントだ。

しかし、国内の新型コロナウイルス感染が深刻さを増した3月下旬、市はさくらまつりの取りやめを発表し、出店だけでなく、公園での飲食そのものを認めない判断を下した。

ただ、この時点では、ライトアップや桜のインターネット動画配信などを実施する方針だった。地元には衝撃と落胆が走ったものの、メディアは「静かな園内で、落ち着いて桜を観賞するしかない」といった市民の声を紹介していた。

弘前公園は市の中心部に位置し、南北約1km、東西約500m。津軽氏の居城・弘前城の遺構の主要部分がほぼそのまま残り、四季折々の景観や鳥のさえずりを楽しめる。天守は江戸時代から残る「現存12天守」の1つで、東北では唯一だ。明治維新後、城主と藩を失って荒廃した弘前城を、地元の人々が整え直し、1882(明治15)年にソメイヨシノを植え始めた。その歴史と相まって、弘前公園とソメイヨシノは、単なる「城跡」「桜」にとどまらず、まちのアイデンティティーの中核を占めている。

人を引き寄せる桜

弘前公園の外堀沿いには市役所や裁判所、地元新聞社、県立高校が並び、通路の一部は生活道路を兼ねる。筆者も10年ほど前に2年間、外堀の前に建つオフィスに通った。当時の上司は春先、「ここは日本最高の通勤ルートだ」と顔をほころばせていた。日に日に膨らみ、赤らんでいく外堀のソメイヨシノのつぼみは、豪雪地帯・津軽の春の喜びを象徴する存在だ。

弘前公園付近の略図(地理院地図から筆者作成)

だが、このような公園の立地、そして市民と公園、桜の関わりそのものが、市にとっては懸念材料となった。

仮に出店がなくても、多くの人々が、春の喜びを味わおうと公園を訪れる可能性がある。県外からも、弘前の桜を愛する人がやって来て、人混みが生まれるかもしれない。その時、安全を確保できるか……? 

市は4月1日、公園そのものを閉鎖する方針を明らかにした。地元には2度目の衝撃が走った。困惑の一方で、筆者の友人知人の何人かは「市長の覚悟をみた思いだ」と漏らした。

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