安倍首相、現金「1人10万円」に心変わりした事情 二階氏、公明党の離反に揺らぐ「安倍1強」

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政府は、10万円給付を盛り込んだ2020年度の組み替え補正予算案を20日に閣議決定し、予算書印刷作業などを急いで27日に国会提出する方針だ。与党は連休返上で短期間で審議し、4月中の成立を目指す。野党も組み替え動議提出などを模索しているが、審議日程での抵抗は難しそうだ。

このため、与党は「支給への手続きを最大限効率化すれば、5月中の支給開始も可能」(公明幹部)としている。麻生財務相も17日の記者会見で「5月にはやれるように対応しないといけない」と述べた。ただ、政府部内では「過去の例では、2、3カ月かかったし、実際に担当する市町村が対応できるのか」(関係省庁幹部)との不安の声も出る。

内閣支持率は不支持が上回る

その一方、安倍首相が決断した緊急事態宣言の全国拡大は、「5月の連休の国民の移動を制限するのが目的」(西村康稔コロナ担当相)だ。となると、連休前に感染拡大が収束傾向に向かわない限り、連休中の自粛効果が見極められるのは5月中旬以降となり、現在の外出自粛要請はそれまで継続せざるをえなくなる。

その場合、「まさにどこまで続くぬかるみぞ」(経済界幹部)となり、「国民の自粛疲れも限界を超える」(社会学者)ことも想定される。

安倍首相は17日夜の記者会見で、外出自粛や休業要請に対する国民の理解と協力を繰り返し訴えた。その上で、現金給付案をめぐる突然の方針転換については「混乱を招いたことは私自身の責任で、国民の皆さまには心からお詫びする」と陳謝した。ただ、これまでの質疑と同様、用意されたメモを読む場面が多く、次の外交日程を理由に会見は1時間弱で打ち切られた。

最新の各種世論調査では、いったん持ち直した内閣支持率が再び下落傾向となり、ほとんどの調査で不支持が支持を上回っている。安倍内閣のコロナ対応を「ツーリトル(規模が小さすぎ)、ツーレイト(遅すぎる)」と受け止めた国民感情が、首相批判につながっているのは否定できない。

折しも17日には、安倍首相が全世帯配布を政治決断した「アベノマスク」が、都内の各家庭に配達され始めた。安倍首相は国会答弁で「布マスク配布には理がある」と意地を張るが、不織布マスクより一回り小さいサイズに、ネット上には「これでは感染予防にならない」など写真付きの投稿があふれている。

緊急事態宣言の期限となる5月6日まであと3週間足らず。17日の東京での感染者数は201人と過去最高を記録した。このままのペースが続いて感染拡大が収束しなければ、まさに「政権自体の危機」(立憲民主党の蓮舫幹事長代行)で、これからは、安倍首相や国会議員だけでなく、国民全体が目をこらしてコロナ危機の推移を見守る「運命の3週間」(閣僚経験者)となりそうだ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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