安倍首相、現金「1人10万円」に心変わりした事情 二階氏、公明党の離反に揺らぐ「安倍1強」
しかも、生活困窮世帯に限定して30万円を給付する案は、政府与党内で議論が錯綜する中、安倍首相や麻生太郎副総理・財務相、岸田文雄自民党政調会長ら、安倍政権の主流が最終決断したものだ。これを「ちゃぶ台返し」(自民幹部)にしたのが、政権の支柱のはずの二階俊博自民党幹事長と山口那津男公明党代表だったことで、「これまでの安倍1強の空洞化」(自民長老)も浮き彫りとなった。
今回のドタバタ劇の発端は、二階氏が14日の記者会見で「1人10万円」の給付案を唐突にぶち上げたことだ。この発言に山口代表がすかさず呼応し、15日に官邸に押しかけて安倍首相に直談判。16日の安倍首相との電話会談で「補正の組み換え」を強硬に主張し、同日夜の方針大転換につながった。
公明党の攻勢に安倍首相も白旗
そもそも、二階氏の発言は30万円給付に対する自民若手などの強い不平不満を背景に、「補正予算成立後の第2次補正での一律給付の実現を狙ったもの」(側近)で、「首相にとっても寝耳に水」だったとされる。ただ、これに山口氏が飛びついたのは、二階氏にとっても想定外だったとみられる。
公明党はもともと、政府の超大型経済対策取りまとめの段階で、一律10万円給付を繰り返し求めていた。最終的には安倍首相らの方針を了承したが、給付条件の厳格化などで対象が全世帯の2割程度に絞り込まれたことに世論が猛反発。「寝た子を起こす」(公明幹部)ことにつながった。
二階発言を絶好のチャンスとして攻勢に出た山口氏ら公明幹部は、16日に予定されていた補正予算案の審議日程を協議する衆院予算委理事会などの出席拒否も通告するなど、「補正組み換えは絶対譲らない強硬姿勢」(同)で政府・自民党を押しまくり、安倍首相も白旗を掲げざるをえなかった。
ただ、安倍首相自らが第3次世界大戦と表現するコロナ危機への対応で、政府・与党内に対立と混乱が生じたのは「これまでの安倍政権ではありえなかった事態」(自民長老)だ。公明党は「飲まないなら連立離脱も辞さない」と警告したとされ、野党からも「与党内からの倒閣運動が始まった」との声が相次いだ。
第2次安倍政権の発足後、公明党は党内や支持組織の反発が強かった新安保法制に対する容認・協力などで、「政府・自民党に追従する下駄の雪」(自民幹部)と揶揄され続けてきた。山口氏は「政権の暴走を止める錨となるのがわが党の役目」と力説してきたが、同党幹部は「今回は『錨』が『怒り』に変わった」とだじゃれ交じりで解説した。
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