「事業仕分け」の暴走 漢方薬「保険外し」に患者や企業が抗議の声
病院や診療所で漢方薬を処方されている患者が、治療打ち切りの不安におびえている。
事の発端は11月11日。舞台は政府の行政刷新会議(議長・鳩山由紀夫首相)による「事業仕分け」だった。医療費の無駄をあぶり出すことを目的とした仕分け作業の際に財務省が用意した資料に、次のような記述があった。「湿布薬、うがい薬、漢方薬などは薬局で市販されており、医師が処方する必要性が乏しい」。
そして、特許切れ医薬品の薬価のあり方などほかの議題を含む1時間の議論の後に、15人の「仕分け人」(評価者)のうち11人の賛成によって、漢方薬を含む「市販品類似薬」を「保険対象外とすべき」とした。
騒動はこれを機に勃発した。医療用漢方薬最大手ツムラの株価が暴落する一方、医療現場で漢方薬を処方する医師や患者の間から、反対の声が上がった。
財務省の主張を追認
日本東洋医学会など4団体は、12月1日に27万人分の反対署名を長妻昭厚生労働相に提出。厚労省が保険外しに反対の姿勢を示していることもあり、医薬品業界は「保険外しは99%ないと見ている」(芳井順一・日本漢方生薬製剤協会会長=ツムラ社長)。その一方で、政府部内では、仕分け結果を見直そうという動きは鈍い。芳井会長は、「万が一にも保険から外されたら、メーカーは存続できなくなる。そして、患者さんは必要な医療を受けられなくなる」と危機感を強め、撤回を求めるロビー活動を続けている。
漢方薬の「保険外し」騒動は、今回初めて起きたわけではない。実は1993年にも大問題となっていた。同年8月、元厚生事務次官の講演会での発言を契機に保険外し問題が浮上。旧厚生省の医療保険審議会は同年12月に、当時の厚生相宛てに、「一般用医薬品類似医薬品の保険制度上の取り扱い」を検討する必要があるとの建議書を提出した。
こうした旧厚生省の動きに危機感を抱いたのが漢方薬を処方する医師や患者だった。当時も日本東洋医学会が中心となって署名活動を展開。94年5月から8月末にかけて、148万人分の署名を集めた。
この時、矛を収めたのは旧厚生省側だった。担当課長が「漢方製剤を保険薬価からどうこうするというような個別的な議論はまったくしていない」と発言。騒動は終息した。