「事業仕分け」の暴走 漢方薬「保険外し」に患者や企業が抗議の声
仕分けの結果を知らぬ患者
仙谷由人行政刷新相は本誌の取材に自身も「愛用している」と語る一方で、「漢方薬には学問的にも確立していない部分があり、ただ漫然と西洋医がついでに出しているというような部分もあるのではないか、とよく言われている」と発言している。
だが、こうした見方とは異なり、医療現場における漢方薬の普及は「客観的な証拠を伴って進んでいる」と芳井会長は語る。米国での承認を目指した臨床試験も始まっている。
医学教育に関しては、2002年度に文部科学省が導入した医学教育モデル・コアカリキュラムで漢方医学が採用されたうえ、04年度には80の大学医学部すべてで漢方医学の講座が設けられるに至った。また、漢方専門医の資格認定制度も創設され、08年4月には、「漢方科」「漢方内科」などが正式な診療科目として標榜できるようになった。
「保険外し」が患者に与えた不安感は極めて大きい。
大阪市内で診療所を開業する呉成徹医師(上写真の右)は3年前から漢方薬の処方を行っている。診療所に通う山川せつさん(仮名、78)は、「保険から外される可能性があると聞いてショックを受けた。医療費が払えなくなり、生活が成り立たなくなる」と、不安を隠さない。
気管支ぜんそくや不眠症を患う山川さんは、「漢方薬は欠かすことができない」と語る。呉医師は現在、不眠症の治療を目的に「加味帰脾湯」という漢方薬を山川さんに処方しているが、「食欲が出てきており、眠りが改善している」と指摘する。
「保険外し」に危機感を抱いた呉医師は署名活動に参加。200人近い署名を集めた。「署名に応じてくれた多くの患者さんが、事業仕分けで保険外しの結論が出た事実を知らなかった」と呉医師は語る。
日本が「保険外し」で右往左往している間に、世界の動きは風雲急を告げている。中国は自国の伝統医学である「中医学」をグローバルスタンダードにすべく、国際標準化機構(ISO)を舞台に、多数派工作を始めている。こうした動きに日本の漢方も巻き込まれる可能性もある。
医薬を含む中医学の市場規模が約10兆円とされるのに対し、日本の医療用漢方薬市場は1000億円程度。「保険外し」は、医療用漢方薬市場に再起不能の打撃を与える可能性がある。そして最大の被害を受けるのは国民だ。
(岡田広行 =週刊東洋経済)
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