日本の「雇用調整助成金」は支給まで遅すぎる 労働者を守るドイツの迅速な支給制度に学べ

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ドイツで3月にクルツアルバイトを申請した企業は47万社に上る。参考までにリーマンショック時の利用実績をみると、1社当たりの平均で18人の労働者が制度の対象となった。この数字を単純に当てはめると、今回はざっと850万人が制度を利用する計算となり、リーマンショック時以上に多くの雇用が守られることになる。

ドイツは産業に占める製造業の割合が多く、モノづくりや職業教育を重視するお国柄だ。工場の一時操業停止のたびに従業員を解雇すれば、企業内に蓄積した技術が失われてしまい、従業員のやる気やロイヤルティーも低下してしまう。操業再開時に新たに人員を採用すれば、採用や教育訓練にコストも時間もかかる。一時的な不況に際して、企業内に雇用を抱え込むことを可能にする政策支援は、ドイツの産業構造や労働慣行と親和性が高い。このあたりは日本とも共通する。

ドイツでは2つの書類、15日程度で支給

ドイツのクルツアルバイトの申請書類(出所:Bundesagentur für Arbeit )

そのドイツの申請書類を確認すると、①申請書類(2ページ)、②休業計画(2ページ)、③各従業員の労働実態を記したリストの計3種類。コロナ危機対応で企業の事務負担を軽減するため、今回は①と②を簡略化した申請書類(1ページ)と③のリストの2種類の書類を提出することで申請作業が完了する。

企業はパソコン上で申請書類に必要事項を入力し、オンラインで申請書類を提出することができる。虚偽記載や不正受給などへの対処は、後に抜き打ち検査で対処する。

欧州諸国でもこうした休業・時短補助金制度が手放しで称賛されているわけではない。特に今回のように都市封鎖で事業活動が停止してしまう場合、休業手当を支払う手元資金に余裕のない企業も多い。支給開始までの時間短縮は急務だ。ドイツでは申請から15営業日程度で助成金が支給され、類似の制度を持つフランスやイタリアでは1カ月程度とされる。日本政府も手続き簡素化や支給までの時間短縮に努める意向を示唆しているが、迅速な対応が待たれる。

田中 理 第一生命経済研究所 主席エコノミスト

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たなか おさむ / Osamu Tanaka

慶応義塾大学卒。青山学院大学修士(経済学)、米バージニア大学修士(経済学・統計学)。日本総合研究所、日本経済研究センター、モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)にて日、米、欧の経済分析を担当。2009年11月から第一生命経済研究所にて主に欧州経済を担当。

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