人工呼吸器、患者急増でも増産阻む「高い壁」 高い輸入依存、部品調達や承認審査に課題

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すでに埼玉県の医療機器メーカーがキャディの呼びかけに応じた。この会社は動物用の人工呼吸器を生産している。人間に使うためには厚生労働省の認可が必要だが、一部の部品を変更すれば人間用のものを作ることが可能だという。

部品が調達できても、厚労省の承認というハードルもたちはだかる。医療機器や医薬品の製造・販売や輸入販売には、厚生労働省から薬事承認を得る必要がある。

人工呼吸器の不具合は命に関わるため、MRI装置や電子内視鏡と比べても厳格な規制があり、2段階の審査を経る必要がある。厚労省医薬食品局審査管理課によると、承認には通常5カ月程度かかる。

厚労省の規制緩和の可能性はあるが…

アメリカの食品医薬局(FDA)は、今回のような緊急時に平常時よりも迅速に審査を行うための緊急使用許可の手続きを用意している。厚労省の担当者は「あらゆる想定はしているが、(承認迅速化を行うとして)実際にどのように実施するかはまだ決まっていない」と話す。

既存の医療機器メーカーと連携すれば審査の手続きが早く進みそうだが、ある医療機器メーカーの社員は「ダイソンやテスラなど、世界中いろいろなところから人工呼吸器の生産の話が出ているが、日本で使えるのかなど詳しいことがよくわからない」と漏らした。

4月7日には、梶山弘志経済産業相と加藤勝信厚生労働相が経団連と経済同友会に人工呼吸器の増産協力を要請した。一部の医療機器メーカーは、動物用の人工呼吸器や海外向けの簡便な人間用人工呼吸器の増産に乗り出している。

これらは日本国内で販売・使用するための承認を得ているものではないが、今後厚労省が手続き緩和に動く可能性はある。ただ、今のところ異業種企業が人工呼吸器製造に参入しても、実際に医療現場で製品が使われるようになるまでには相当の時間がかかりそうだ。

高橋 玲央 東洋経済 記者

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たかはし れお / Reo Takahashi

名古屋市出身、新聞社勤務を経て2018年10月に東洋経済新報社入社。証券など金融業界を担当。半導体、電子部品、重工業などにも興味。

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田中 理瑛 東洋経済 記者

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たなか りえ / Rie Tanaka

北海道生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。報道部、『会社四季報』編集部を経て、現在は会社四季報オンライン編集部。食品業界を担当。以前の担当は工作機械・産業用ロボット、ドローン、医療機器など。趣味は東洋武術。

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