「BCG有効説」眉唾だが懸けてみる価値アリの訳 有効性確認急ぐ中、経済学的に別アプローチも

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さて疫学という医学分野があります。19世紀のロンドンでコレラが流行し十数万人の死者が出たときに「疫学の父」と後に呼ばれるようになったジョン・スノウはコレラの死亡者が多い地域と少ない地域にどういう違いがあるのかを統計的に分析しました。いろいろと調べた中で出てきた有力なデータが「ロンドンにある2つの水道会社のうち、片方の水道会社を利用している家庭ともう片方の水道会社を利用している家庭では1万世帯あたりの死亡者数が8.5倍の有為差がある」というものでした。

そこで(当時はそういう呼び名がなかったかもしれませんが)疫学者のスノウは「とりあえず死亡者数が多いほうの水道の利用をやめよう」と提案し、それを実施した町ではコレラの感染がおさまったといいます。コッホがコレラ菌を発見したのはその30年後で、それまでの30年間はなぜスノウの提案が有効だったのかは誰にも確認できなかった。あとからわかったことは感染者を多く出した水道会社はテムズ川の下水よりも下流から水を採取していたそうで、現在では科学的にもスノウの提案が有効だったことは証明されたわけです。

「たばこが健康に悪い」も疫学者の主張が先

疫学は医学の1分野です。日本疫学会は疫学について以下のように定義し、その役割をホームページで紹介しています。

疫学とは、「明確に規定された人間集団の中で出現する健康関連のいろいろな事象の頻度と分布およびそれらに影響を与える要因を明らかにして、健康関連の諸問題に対する有効な対策樹立に役立てるための科学」と定義される。疫学は健康に関連するさまざまな事象の頻度や分布を観察することを目的にするため、対象は1人の人間ではなく集団であるが、集団の特徴(集団の定義、年齢、学年、性別)やどの時点を調査対象とするかを明確に規定した上で事象の頻度や分布を調べる必要がある。また、事象に影響すると結論付けられた要因を除外、軽減する対策を講じ、除外後の効果を公衆衛生的に考えるのは疫学の社会的意義である(日本疫学会ホームページ)。

疫学者は必ずしも厳密な因果関係だけを重視するわけではないようです。たばこの議論がよく引き合いに出されますが、たばこに発がん性があったり、喫煙習慣が心臓疾患を引き起こしたりするといった事実が医学的に証明される以前から、疫学者はたばこが健康に悪いという主張を広め、世界の禁煙政策に強い影響を及ぼしてきたといいます。

仮に将来、BCGワクチンが新型コロナに有効だと判明する可能性があるからといって、新型コロナ予防のためにBCGワクチンを接種しろというのは政策的にみても乱暴な議論でしょう。そもそも一定地域向けに限定されていた生産量のワクチンを、対象地域を広げて広くあまねく人に接種させることになったら、その数が足りなくなることは明白です。しかもその効果は医学的に確認されていない。もし後々、臨床試験で効果がないとわかったらマイナスしか起きないことになります。

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