実際どれくらいお得?電車の全線「サブスク」 東急が発売、実証実験延期だが試算してみた

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バスの全線定期でありがたみを感じるのは複数路線に乗り継いだときだ。筆者も京王バスの「モットクパス」を使い、通勤のほかにも区役所へ行ったり、新宿に映画を観に行ったり、渋谷にサプリと日用品を買いに2路線乗り継いで行くといった使い方をしている。

こういった使い方で1日5回も乗れば1000円は超えるはずのところ、1日あたり313円だ。従来の全線定期券でもものすごくおトクなのに、東急サブスクパスはこれを月5000円、1日あたり167円にしようというのだから、大変太っ腹である!毎日片道1回乗るだけで元が取れる水準だ。

そば

もともと、同じ内容と値段で「しぶそば定期券」3500円がある。320円のもり・かけそばが1日1杯食べられるので、11回食べれば元が取れる。

30日で割れば「もり」「かけ」が1杯120円弱。毎日食べれば某学園の土地代の値引き並みのお得感を実感できるだろう。だが毎日は飽きるのではないか。追加購入を狙った天ぷらのラインナップの充実など、お客が「飽きない」ように商いできるかが普及の課題となるだろう。

映画

一般が1900円なので、月6本以上見ればお得だ。しかし、そんなに見るだろうか? 月内すべての映画を見る人か、同じ映画を2~3回じっくり見る人向けのコースと言えるのではないか。

電動自転車

電動自転車は、東急が2011年に始めたサイクルシェアのサービスである。通常は3150円だが、サブスクパスだと計算上3000円となるので150円だけ安い。もっとも、東急線の電車定期券利用者は通常は割引価格の2620円になるところ、サブスクパスでは必ず電車とセットになるのに割引がないところが残念である。

だが、自転車使い放題が1日100円程度利用できるのはありがたい。駐輪場代だけでも1日100円はしそうなものだが、サイクルシェアなら駐輪場代はもちろん、自前で自転車を用意する必要もなく整備も不要だ。

電車の価格設定は工夫の余地あり?

いかがだったであろうか。筆者としては、電車乗り放題1万5000円は相当使い込まないとキツいものがあると思う。

東急の場合、運賃の平均客単価は100円である。そばのパスのように、1日あたりの利用回数を3~4回程度に制限したうえで1万円程度というコースがあれば、もっと使いやすくなり、需要もあるのではないか。バスがあれだけお得なことを考えると夢物語ではない価格設定ではなかろうか。

また、東急は複数の路線で東京メトロと直通しているので、東急線内だけだと利便性向上の効果は限定的だ。行きと帰りで経路が違えば、そのつどメトロの普通運賃を支払うことになる。乗車回数制限のうえで、東急とメトロ全線で2万円といったセットができれば、なおいいと思う。

今回の「サブスクパス」、残念ながら新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、本来4月13日まで発売予定だった5月分は発売中止となった。だが、さまざまな分野でサブスクリプションが注目される中、今後も他社を含め同様の取り組みが行われるかどうか気になるところだ。

北村 幸太郎 鉄道ジャーナリスト

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きたむら こうたろう / Koutaro Kitamura

1989年東京生まれ。2008年昭和鉄道高等学校運輸科卒業、2012年日本大学理工学部社会交通工学科マネジメントコース卒業。乗り鉄、ダイヤ鉄。学生時代は株式会社ライトレールにインターン生として同社の阿部等社長のもと、同社主催の「交通ビジネス塾」運営などに参加。

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