日本の「医療崩壊」現実に起こりえる危機的状況 医療従事者の負担増大、患者受け入れに不安

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医療スタッフ、さらには人工心肺装置からマスクに至るまで、医療機器の確保にも問題がある。

病院や診療所、介護施設で働く人たちが所属する日本医療労働組合連合会が3月、新型コロナの感染者増加に絡んで職場アンケートを実施したところ、「休暇を取ることが難しい」、「人員確保ができない」、「時間外勤務が増加している」などの声が多く寄せられた。

クルーズ船「ダイヤモンドプリンセス」の患者を受け入れたある社会保険病院は、医師と看護師が足りず、全国の社会保険病院に応援を要請した。しかし、要請に応じた病院ももともと人手が不足しており、「医療崩壊まではいかないにしても、かなり危機的な状況だ」と、医労連の森田進書記長は話す。

「これまでも医師や看護師の不足をずっと訴えてきたが、今回感染症の対応でより深刻さを増している」と、森田氏は語る。

重篤患者の命を救う人工心肺装置「ECMO」は、機器そのもの、さらにそれを扱う人材の不足が懸念されている。

東京都の場合、ピーク時に必要となる重篤病床を700床としているのに対し、ECMOの保有数は今年2月時点で196台に過ぎない(日本呼吸療法医学会・日本臨床工学技師会)。

大手医療機器メーカーのテルモ<4543.T>が先日、ECMOの増産を発表したが、日本集中治療医学会は1日の理事長声明で、ECMOを1台使用するには複数の医療従事者が必要であり、日本では扱えるスタッフも足りないと指摘している。

さらに同医学会は、ICU(集中治療室)病床の数がイタリアの半数以下であり、無理に収容すると感染防御の破綻による院内感染、医療従事者の感染、集中治療に従事する医療スタッフの肉体的・精神的ストレスが極限に達するとみている。

明日は我が身

一般の病院に勤務する30代の女性看護師はここ最近、医療用マスクを繰り返し使用するようになったと打ち明ける。

医療現場では通常、マスクは外すたびに破棄する。それが原則1日1枚に制限され、食事の際はビニール製の袋で密閉して管理、食べ終わったら取り出して装着する状況だという。

「米国でゴミ袋を防護服にしていた看護師が亡くなったという報道があった」と、その女性看護師は言う。「正直、明日は我が身なのかもしれない」。

(宮崎亜巳 中川泉 Ju-min Park、取材協力:斎藤真理、山光瑛美、Rocky Swift、村上さくら 編集:久保信博)

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