TGVでコロナ患者移送、「走る病院」改装の舞台裏 打診から3日で運行開始、なぜ素早くできた?
TGVで患者を移送するにあたっては、より早く目的地の病院に送り込むため、あえて減速せず、高速専用線区間では通常の最高速度である時速320km走行を維持した。ただ、この高速輸送に関しても反対の声がある。
「医師の中にはこの移動方法は無茶だと言っている人もいます。自分が患者だとしたら移動するのもつらいし不安でしょう。もっと患者を移動させないでできる手立てはないのか、という意見も耳にします」(マイアットさん)
今のところ、この患者輸送によるリスクをめぐる論議はフランスでは大きくなっていないが、移送が繰り返される中で、懸念が巻き起こらないとも限らない。テレビのインタビューを受けた医師が「これは不適切な方法」と指摘し、「衛生管理がちょっと甘いように見える」と述べた例もある。
航空会社CAを病院の補助要員に
輸送需要の急減で、航空会社は世界的に厳しい状況にある。多くの職員が自宅待機となっている中、イギリスでは2012年ロンドン五輪の室内競技会場にも使われた国際展示場「ExCel」に作られる臨時医療施設「ナイチンゲール病院」に、現役のキャビンアテンダント(CA)を補助要員として雇う方針を打ち出している。ここでは4月初旬から運営が始まるが、患者4000人収容で1万6000人からのスタッフが必要とされる。
協力するのは、かつて日本にも乗り入れていたヴァージン・アトランティック航空と、格安航空会社(LCC)イージージェットの2社。CAの約半数は応急処置の訓練を受けているが、医療行為そのものには携われないため、ベッドメイクや物品の運搬に当たるという。
4月中は「ロンドンからアメリカ2都市と香港の3路線しか飛ばさない」と決めたヴァージン航空は、全体の職員のうち5分の4を無給休暇扱いにしている。この「ナイチンゲール病院」要員として働くCAたちはボランティア扱いだが、政府が定めた救済スキームで一定の補償金(給与の8割を給付)が得られることになっている。
しかし、これらの活動は、いずれも支援に関わった人々や地域への2次感染というリスクをはらんでいる。
TGVでの移送にしても、ある地域での医療崩壊を防ぐにはやむをえない方法であるに違いない。
ただ、前出のマイアットさんは「周りのフランス人たちからは『そんな遠くに運ばなくても、患者さんが住むエリアの医療機関を空けて、軽症者を動かせばいいのでは?』という意見が多く聞かれます。別の地方の患者を引き受けること自体に反対はしないが、これから引き受け先の街に感染のピークが来て、結果として病床が足りなくなるのが不安、という声もありました」と疑問を呈する。
日本でも新型コロナの重篤患者対策で頭を悩ます日が来る恐れはある。広域での治療は現実的なオプションだろうか? どこかの都市で、大規模な医療崩壊が起きなければいいのだが――。
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