TGVでコロナ患者移送、「走る病院」改装の舞台裏 打診から3日で運行開始、なぜ素早くできた?

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各車両にはICU担当の医師のほか、麻酔医とその助手、看護師が3人の計6人が1組となって乗車。移送中の患者の対応に当たる。

ビュッフェ車の車内はコントロールセンターと、移動中に容体が急変した患者への対応スペースとして使われる(写真:SNCF-J. Groissard-Ministère de l'Intérieur)

「TGVデュプレックス」には、8両編成の4両目にビュッフェカーが付いている。普段なら食事やケーキなどが楽しめるが、スタッフ用の休憩室に使われるのかと思いきや、今回の「徴用」では、全体の指示系統を司るコントロールセンター兼「移動中に容体が急変した患者への対応スペース」として使われることになった。

患者移送の準備は3月25日に開始。専用車両はパリ東駅からフランス東部へと回送され、翌日26日にはストラスブールからの編成が患者12人を乗せて西部ポアティエ北郊外のフュテュロスコープへ、もう1編成がナンシーから24人の患者を乗せてボルドーへと向かった。

ただ、到着駅の周辺にこれらの患者を1カ所で収容できるところはなく、複数の病院に振り分けたという。

史上初の重篤患者移送作戦

こうした重篤患者を高速鉄道車両で移送したのは、欧州でもこれが初のケース。SNCFは2019年5月、TGVを病室に改装し、テロ攻撃で負傷した市民らを救出するという訓練を行っていたが、今回の移送に当たってはこの経験が役に立ったという。まさか予行演習から1年以内に実戦配備されるとは、関係者の誰もが想像しえなかったことだろう。

40人近くの重篤患者を一気に公共交通機関の運用中車両を使って運んだ例はこれまでになく、現地報道では「乗り物を使った重篤患者救出作戦として過去最大」と評している。しかし、こうした大掛かりな取り組みについて、フランス国民はどう評価しているのだろうか?

マクロン大統領は3月16日、いわば外出禁止令とも言える「ロックダウン宣言」を行った。その後、次々と国民への補償や新たな政策が発表された。

フランス北部で翻訳会社を運営するマイアットかおりさんは「大統領の、国民の生活を守りたいという意気込みと迅速な動きには非常に心強く感じる、と周りの人々と話しているんですが……」と国の方針を評価する一方、「TGVで重篤患者を輸送するというニュースを見るたびに、ウイルスが飛び散る危険性はないのか、大丈夫なのかと不安になりますよね」との懸念も示す。

今回のTGVによる新型コロナ患者輸送の背景としては、鉄道による長距離移動の需要が激減していることがある。TGV車両を使った特急「inOui」、格安特急「Ouigo」のいずれも減便していることから、こうした緊急的対応が取れたとも言えよう。

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