4年間「不登校の双子」が学童保育で掴んだ宝物 「双子の成長を支えた」ある女性指導員の尽力

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指導員のヤスコさんも、「毎日2人が学童に来てくれるだけでいい。友達と笑って話していればいいと思うようになった」と振り返る。成長の機会になればと思い、「プールで25メートル泳ごう」などと課題を出してしまい、来なくなった時期があったからだ。2人の居場所であればいい。何かをしてあげようと思うのではなく、2人の自主性を尊重した。

仲間とあそぶなかで、心も身体も成長していく。夢中になってあそぶことで創造性や好奇心を刺激もするし、1年から6年の異年齢集団のなかで他者とのコミュニケーションのとり方も自然に身に付けていく。得意なことや好きなことを見つけることもある。

高学年だけで年間を通して取り組む高学年活動では、本格的なラーメン作りに挑戦した。料理の腕前はぐんぐん上がっていった。2月には卒所生だけで記念旅行に出かけることになっていた。資金作りにも自分たちで考えて取り組んだ。2人が仲間と作った餃子や唐揚げは保護者から大好評。見事、旅行費用を稼いだ。

「あの子たちに歩み寄り、励まし、寄り添ってくれる指導員がいなかったら、2人は学童に通えなかったし、私も、学童がなかったら前を向いて歩いて来られなかった」と、ミユキさんは言う。

学童を通じて大きく成長した2人

2人の変化はと尋ねると、軽く指を組みながらゆっくりと続けた。

「ケンは低学年の頃、腹が立つと手が出てしまう子でしたが、自分の気持ちをコントロールできるようになりました。ぶっきらぼうですけど、優しいところがあって、他の保護者から『うちの子をかわいがってくれてありがとう』と言われ、驚いたこともありました。シンは真面目で何事にも一生懸命なのが長所ですが、そのために頑張りすぎてしんどくなってしまうところがありました。今では、不登校という言葉を口にするようになっていて、ありのままの自分を受け入れられるようになったんだなと思いました。私が家事で忙しそうにしていると自分から手伝ってくれて、いつも気遣ってくれています」

文科省の調べでは2018年度、不登校の小中学生の数は16万人を超え、過去最多となった。前年度より約2万人増えた。不登校はどの子にも起こりうる。理由もさまざまだ。いじめなどのはっきりしたものもあるが、学校に行きたくない理由が子ども自身にもわからないことも多い。

しかし、共通するのは、子どもたちは苦しんでいて、学校に行けない自分に罪悪感や不安を感じていること。周囲に理解してもらえない状態が長く続けば心を閉ざし、ひきこもっていく。子どもたちをありのまま受け止め、子どもたち自身が一歩を踏み出せる環境づくりができたらと願うばかりだ。行政による支援センターや民間のフリースクールは知られているが、学童もまた不登校の子どもたちを支援できるひとつの社会資源なのだ。

4月からは、自由度の高い中学校に進む。2人が自分たちの目で見て、考えて、選んだ。

公園では、下級生の親子49人がアーチを作って、卒所生の親子を送りだそうとしていた。駆け抜けるシン君とケン君の後を追って、ミユキさん夫婦も笑顔で通り抜けていった。

※プライバシーに配慮して、記事内に登場する人物の名前はすべて仮名となります。
須藤 みか ノンフィクションライター

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すどう みか / Mika Sudo

長く上海を拠点に活動したのち、2014年秋帰国。現在は、大阪、在日中国人のほか、子どもと読書、子どもの育ちにかかわる職業などをテーマに取材。著書に『上海ジャパニーズ』他。2009年、『エンブリオロジスト 受精卵を育む人たち』で第16回小学館ノンフィクション大賞受賞。「本好きキッズの本棚、見せて見せて!」などに連載中。

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