消費増税後、ドン・キホーテは安値攻勢へ 大手各社の利益を削った価格戦略の勝算は?
「4月以降も税込み価格で頑張っています!」──。DSが群雄割拠する“DS王国”九州で、増税後を見据えたポスターを大きく掲げるのは同社が展開するスーパードラッグ・コスモス。「税込み価格」とは、総額表示にとどまらず、価格据え置き、実質的な値引きを意味するという。
北九州を軸に約550店を展開するコスモスは、ドラッグストアながら、売上高に占める食品の割合が53%と高い(マツモトキヨシは11%)。あるナショナルブランドの定番冷凍食品は、近隣のスーパーよりも1~3割安く販売されている。
低価格の食品で集客し、ドラッグで稼ぐ。それを高密度のドミナント出店による物流効率化などローコスト運営で支える戦略により、13年5月期まで5期連続の2ケタ増収・増益を続けている。
だが、今回の値下げは粗利益を削って実施され、「短期的には(15年5月期は)減益になる」(柴田太取締役)。
増税時に総額表示を続け、かつ価格を据え置くのは、大手ドラッグでも異例。減益覚悟の値下げは「競合からシェアを奪うため」と柴田取締役は話す。
04年、小売店に総額表示義務が導入された際には、競合のDSが消費税分を吸収して表示価格を据え置き、転嫁したコスモス薬品は一時、業績が低下した。その反省を踏まえ、再び消費者が価格に敏感になる4月は一気に攻める。「消費者には時間がない」というのが、創業者・宇野正晃社長が考える消費者像。忙しい主婦に対し、「ワンストップで最も安く買える店」という印象を刷り込んでいく。
コスモス薬品と同様に生鮮を扱うDSは、価格に敏感な主婦層を相手にしているため、据え置き、値下げを宣言するところが多い。たとえば、コスモスと競合する北九州のトライアルカンパニー(約170店)は、支持率の高い商品は増税後も極力、価格を据え置く方針。岡山地盤の生鮮DS、大黒天物産(約90店)は従来から実施している同一商品1カ月値下げセールの品数増と値下げ幅拡大を行う。
GMS大手もDS拡充
GMS(総合スーパー)もDS業態強化に舵を切る。ダイエーはDS業態の「ビッグ・エー」を現在の190店弱から16年度に300店まで拡大する方針だ。これまで首都圏主体に、都市部の郊外に売り場面積100坪台前半で展開していたが、今後は70坪型の小型店で都心中心部に攻勢をかける。
イオングループもDS業態「ザ・ビッグ」に力を入れる。現在、グループで約140店を展開し、既存の食品スーパーからの業態転換や、売り場面積2000坪内外の大型店の出店に意欲的だ。今後は低価格PB(プライベートブランド)「トップバリュベストプライス」で、DS専用PBの開発を推進していく。
もっともダイエー、イオンともにDS業態は利益カツカツ。そこにローコスト・オペレーションで強みを持つドンキ、コスモスも粗利益を犠牲にして値下げ攻勢をかけてくるため、DS業態は赤字転落のリスクと隣り合わせだ。
それでも様子見することなくハナから攻勢を仕掛けるのは、DS各社に「先手必勝」の確信があるため。前回1997年の消費増税後、瞬く間に業界に広まった「消費税還元セール」では、消費者の支持を得て、その恩恵を最も受けたのは、最初にセールを仕掛けたイトーヨーカ堂だった。価格競争で先頭を走れば消費者の支持を得られる、逆に出遅れると苦しくなる、との焦りがあるのだ。
消費税に相当する間接税率が高い欧米では、流通業の売上高10位企業の大半に、米国のウォルマートやコストコ、ドイツのメトロやシュヴァルツ、英テコスなどDS大手が名を連ねる。イオンの岡田元也社長は「欧米もそうだったように、消費増税などによって消費者の家計が圧迫される局面では、安売りDSが台頭する」と分析する。
日本の流通業界でも、これまで以上にDSのプレゼンスが高まるか。4月1日、新たな流通戦争の火ぶたが切って落とされる。
(週刊東洋経済2014年4月5日号〈3月31日発売〉 核心リポート01)
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