EUは3度目にして最大の危機でも「内輪もめ」 「非戦の誓い」を忘れれば、反EUの機運高まる

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ただ、最大の論点はESMの活用だ。上述したとおり、OMTもESMを動かさないことには使えないから当然である。ESMは欧州債務危機を契機に設立された総額5000億ユーロ(現在の能力は4100億ユーロ)の恒久的な救済基金だ。ここに支援を要請すると、引き換えに財政再建や構造改革といった「宿題」(いわゆるコンディショナリティ)をこなすことが求められる。つまり、被支援国の財政運営はEUの監視下に置かれることになる。

しかし、こうした条件だと利用が難しいので「無条件で使わせて欲しい」というのがイタリアからの要望なのだが、26日のEU首脳会議を経ても合意に至っていない。

ESMは「欧州債務危機の申し子」であり、被支援国の財政運営を教育・指導するという思想が根底にある。しかし、今や頑固なドイツですら財政運営の柔軟化を容認するほどの緊急事態であり、欧州委員会からも財政運営に関して例外条項を適用する方針が示されている。

パンデミック緊急プログラムでOMTを代替

かかる状況下では、ESMを利用すると緊縮を含む「宿題」を求められるというのでは明らかに本末転倒になるのだが、「ESMを使うなら話は別」というのがドイツ、オランダ、オーストリアなどの財務健全国のスタンスと見られる。まさに2009~13年に散々見た光景であり、「いつか来た道」だ。おそらく最終的には容認姿勢に変わるであろうが、この初動の遅れがまさに欧州債務危機のときと同じである。

もっとも、財政健全国の言い分も分からなくはない。というのも、上述したように、すでにECBが7500億ユーロ規模の「パンデミック緊急プログラム」(PEPP)を展開する中で33%ルールの撤廃に踏み切っている。PEPPは7500億ユーロという枠が設定され、期限も2020年末までとされているものの、正確には「政策理事会が新型コロナウィルスの危機局面が収束した判断すれば、年末前に終了する」というコミットメントだ。

裏を返せば新型コロナウィルス終息なかりせば、無制限に続く可能性も秘めている。事実、一連のECBの政策決定を受けて、上昇していた域内諸国の国債利回りは明らかにピークアウトしており、これ以上、刺激策のアクセルを踏み込む必要はないように見える。

そもそもOMTがあるにもかかわらず、わざわざPEPPを別に作ったのはOMTを使うにはESMを利用して財政監視を受けなければならないという障害があったからだと思われる。現状、金融市場はESM&OMTの利用まで期待しているわけではないので、わざわざ自分からOMTというカードを切る必要は感じられない。今回は未知の危機である。これから何が起きるか分からないのだから、「カードを温存しておく」という発想も大事にしたいところだ。

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