日本の財政がわかってない人に教えたい真の姿 小説『オペレーションZ』が描いた不均衡な世界

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岡本:非常に大事なことです。かつて、財政健全化を議論しているときにその話があって、「では、きちんと国のバランスシートを示せるようにしよう」ということで、専門家を招いて公会計のシステムを作りました。今では毎年連結ベースの国のバランスシートを作って情報公開しています。

バランスシートを見ると、確かに何百兆円という資産が国にはあります。でもこの主なものは、これまで公共事業で造った道路やダムなどです。これは売ること(換金)ができるかというとそうではない。金融資産も100兆円単位であるのですが、これには負債側に公的年金の積立金や外貨準備のための借入金があったりして、負債と両建てになっています。巨額に見える資産であっても、それを売って借金を減らせるかといえば、決してそうではありません。

真山:できませんね。

国は債務超過になっている

岡本:何よりもそのバランスシートを見てもらえばわかるんですが、国は債務超過になっているんです。国の債務はグロスではなく、資産を差し引いたネットで見るべきとの話がありますが、しかしネットの債務で見ても日本の水準は国際的に見て高い。そして、それが毎年増え続けていることが問題です。

真山:前半編の最後の質問です。現在、民間の金融が機能していないとの印象を持ちます。「産業の血液である」と言われているのに、金融機関の投資は債券を買うだけになっているようです。リスク回避のためでしょうが、国が地方公共団体に補助金を出すとき、例えば事業費全体の10%にとどめておき、「残り90%はレバレッジを使って民間の投資を活用してください。何か不具合が起きたら、そのときの保険は国が持ちましょう」とすれば、もう少し金融も活気づくのではないでしょうか。

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岡本:政策予算を増やせない中で、財源をいかに効率的に使って成果を最大限に出すかというのは、すごく大事なことです。もちろん収益の出ない公共的な施設を作るときには、公的な資金でやるしかありませんが、最近では、PFI(Private Finance Initiative)という手法で、民間の資金と経営手法を一部入れています。財政投融資も、かつてのように郵便貯金をそのまま回すという制度ではなく、財投債という国債を出して、きちんと収益が見込めるところに貸す形にしています。収益性の見込める公共投資には、そちらのやり方で進めるようにしています。

真山:そのような展開を生かすスキームを作って、各省庁が予算を申請するのは、財務省としてウェルカムですか?

岡本:そうですね。急に「武士の商法」でいろいろと持ってこられても困りますので、中身はしっかりと見ますけれども(笑)。

(後編に続く)

真山 仁 作家

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まやま じん / Jin Mayama

1962年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004年に企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』で衝撃的なデビューを飾る。ほか作品多数。

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