富山LRT「南北接続」、地方交通の新潮流を生むか 駅を貫通して直通、一部で後退した部分も

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南北直通という大きな目標を達成した富山の路面電車。富山市はさらに、路面電車を富山地鉄の鉄道路線である上滝線に乗り入れることも検討している。市によると、現状で鉄道側との具体的な協議などはしていないものの、2015年ごろから実現可能性についての検討を開始。同線との直通が実現すれば、市内中心部と南部のアクセスが強化される。

直近の計画としては、全国共通ICカードへの対応に向けた事業が進んでいる。現在、市内の路面電車で使えるのは、富山地鉄のICカード「ecomyca」(えこまいか)と、富山ライトレールが発行していた「passca」(パスカ)のみで、SuicaやICOCAなどの全国共通利用が可能な交通系ICカードは使えない。

市は2020年度予算に、全国共通ICカードシステムの導入事業費として約2700万円を計上。2021年度の導入を目指すという。

「信用降車」は廃止

一方で、直通運転開始と同時に後退した部分もある。富山ライトレールの取り組みだった「信用降車」制度の廃止だ。

路面電車は後部のドアが入り口、前部のドアが出口。富山ライトレール時代はICカード利用者が後部ドアから降りられる「信用降車」を導入していた(記者撮影)

富山の路面電車は車両後部の入り口から乗車し、降りる際に乗務員が監視する前部の出口で運賃を支払うシステムだが、富山ライトレールは入り口にもICカード読み取り機を設置し、ICカード利用者については乗務員のいない入り口からの降車を認めていた。

このシステムを信用降車と呼び、乗り降りがスムーズになることでラッシュ時の定時運行確保に一役買っていたという。だが、直通運転の開始に伴い信用降車制度は廃止され、全区間で後部から乗車し、前部から降りる方式に統一された。

市によると、廃止は「事業者側の考えによるもの」。富山ライトレールの粟島康夫社長(当時)は昨年10月の共同会見で、開業に合わせて稼働する新しい運賃精算システムが対応できないことなどを廃止の理由に挙げた。富山地鉄によると、信用降車の再導入は検討していないという。

直通運転初日は前年同時期の週末の1.6倍となる約1万9000人の利用者でにぎわい、混雑でダイヤは混乱。乗客からは「後ろから降りられればいいのに」との声も聞かれた。その後は大きなダイヤの乱れもなく運行しているというが、関係者は「いまは春休み。4月に入り、学校が再開してからどうなるかが課題だろう」と話す。

近年、各地の都市でLRTの整備構想が持ち上がっているが、富山市はその先駆者だ。これからも安定的な運行を続け、さらに利便性を高めていけるか。「お手本」の行方は、各地のLRT構想にもさまざまな点で影響を与えるに違いない。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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