ソルベンシーマージン比率の見直しが遅れれば生保にはマイナスの影響《ムーディーズの業界分析》
一方、中期的見直しの実現によって、資産価値だけでなく保険負債価値の変動をリスクとして反映する経済価値ベースのソルベンシーマージン比率に移行すると、資産・負債間のデュレーション・ミスマッチは厳格に評価されることになる。これは負債のデュレーションが非常に長い生保にとって影響が大きい。実際、すでに経済価値ベースのソルベンシー評価も見据えながら、多くの生保が国内債券ポートフォリオのデュレーション長期化により、資産・負債間のデュレーション・ミスマッチ縮小に向けて動いている。
ここで問題となるのは、中期的見直し実現までの移行期間である。現時点までに発表されている内容に基づけば、短期的見直しとして12年3月期に導入が検討されている新基準の比率はALM(全リスクを考慮した資産・負債の総合管理)推進を必ずしもプラスに反映するものではなく、デュレーション・ミスマッチ縮小に向けた行動が当該比率の悪化につながる可能性すらある。
たとえば、デュレーション・ミスマッチ縮小に向けて、超長期の国債を購入するケースも多いが、機動的な運用を意図して満期保有目的や責任準備金対応債券(時価評価の対象外)ではなく、その他有価証券(時価評価の対象)として保有するケースもある。金利上昇時、その他有価証券として保有する国債には含み損が生じることになり、保有債券のデュレーションが長いほど債券価格は大きく変動しやすい。この時、短期的見直しとして導入が検討されている新基準のソルベンシーマージン比率においては、保険負債価値の変動(したがって、保有する国債の含み損益を相殺するはずの保険負債の含み損益)が反映されないため、資本やソルベンシーマージン比率は低下してしまう。つまり、経済価値ベースのソルベンシー評価を見据えながら、資産・負債間のデュレーション・ミスマッチ縮小を進めて実質的にリスクを減らしている生保ほど、中期的見直しの実現までは、金利上昇時にソルベンシーマージン比率が悪い数値となってしまう可能性がある。
金融庁の発表によれば、リスク係数の引き上げ等、短期的見直しの内容が適用されるのは12年3月期末の予定である。したがって、かつては早ければ10年とみられていた経済価値ベースのソルベンシー評価への移行は、どんなに早くとも2013年3月期以降ということになる。経済価値ベースのソルベンシー評価への移行のタイミングが遅くなるほど、生保にとってはALM精緻化の動きが取りにくくなる可能性もある点は、生保の財務基盤にもマイナスに作用しうる。規制変化を見据えてどのような経営判断を行っていくか、今後も各社の対応に注目したい。
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