フィットとN-BOX、比較で見えるホンダの迷い N-BOXオーナーが新型フィットで感じたこと

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約2時間、「e:HEV HOME」で市街地やワインディング路、高速道路を走行したが、見晴らしのよさという驚き以外は「なんとなく……いい」、そんな感じだった。

新型「フィット」は「BASIC」「HOME」「NESS」「CROSSTAR」「LUXE」の5グレードをラインナップする(筆者撮影)

次に、1.3リッターガソリンの「HOME(171万8200円)にも約2時間乗った。こちらの結果も「なんとなく……いい」。心地よさという軸足では、e:HEVのほうがいいと感じた。

今回、N-BOXユーザー目線で新型フィットに試乗して感じたこと。それは、はっきり言えばホンダが抱えている「迷い」だ。

N-BOXや「S660」といった、日本専用車の中で際立つクルマの開発は、ホンダにとって得意分野だ。

その走りには、驚きを感じる。ただし、これはコスト度外視ともいえるほどの“技術の深堀り体質”があるためだ。ホンダの八郷隆弘社長は、この体質を今後見直すことを明らかにしている。

世界戦略車のフィットの場合、日本市場においては「心地よさ」というマーケティング戦略で他社との差別化を図った。ところが、新型フィットの開発陣にとって寝耳に水、あっと驚く発表があった。

組織再編でホンダはどう変わる?

新型フィット発売開始の4日後、ホンダ史上で最大級の発表を行った。2020年4月1日付で、四輪事業の運営体制を刷新するというのだ。

これにより、1960年から60年間にわたり続けてきた、本田技研工業(ホンダ社内用語での本社)と本田技術研究所(研究所)の四輪事業での連携体系が終わる。二輪事業では2019年4月1日に本社事業と統合されている。

日本市場でホンダは「N-BOX」に代表される軽とコンパクトカーの販売比率が高い(筆者撮影)

研究所は、過去3年ほどに渡り組織再編を進めていた。そうした中で、感性価値企画室などの知見を生かして、新型フィットの「心地よさ」という商品戦略を練ってきたはずだ。「心地よさ」について、研究所内はもちろん、本社との間でも商品の方向性を共有するため、専用の映像も作成している。

だが、こうしたクルマ本来の価値を超えた「人の生活」「人と社会の関係」にまで踏み込むためには、本社・研究所のみならず、ユーザーとディーラーとの関係性をさらに深める必要があるはずだ。

新型フィットの開発陣としては今回、「心地よさ」という人間の本質である感性を深堀りしたことで、ホンダという組織の中でのさまざまなハードルに直面し、大いに迷ったに違いない。

見方を変えれば、ホンダが次世代に向かうために、新型フィットはよきステップアップボードになっているのだろう。

桃田 健史 ジャーナリスト

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ももた けんじ / Kenji Momota

桐蔭学園中学校・高等学校、東海大学工学部動力機械工学科卒業。
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

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