もっと早く中国全土からの入国を禁止していたら、日本の感染者が1000人を超えることはなかったのではないか。そんな思いがレミーさんの頭から離れない。ただでさえ、2020年春節の中国人の人気旅行先トップは日本と言われていたからだ(旅行会社トリップドットコム調べ)。
「(日本側の入国制限についても)香港・マカオは感染者数が少ないのに、どうして中国といっしょくたにされてしまったのか。国際情勢や政治的配慮があるかもしれないが、パンデミックという危機的状況の中で忖度はやめてほしい」(同)
出産を終えても、新生児はすぐに飛行機に乗ることができない。子どもの感染例や死者も報告され始めているため、レミーさんは日本に帰国して2カ月以上、自宅からほぼ1歩も出ずに過ごしているという。一家が再会できる日はまだ見えない。
「お願いベース」のフェーズは過ぎた
冒頭の安藤さん一家は現在も、夫とフィリピン人ヘルパーは香港、妻と子どもたちは日本で離れて暮らす。香港でも、飲食や観光、サービス業を中心に業績が悪化。妻は数週間の無給休暇を取得中だ。
香港と比べて、日本の対応は「すべてが八方美人的」だと夫の栄一さんは憤っている。例えば検疫ルールを破った場合、シンガポールでは永住権を剥奪し、再入国すら禁止したケースがある。香港では最高2万5000香港ドル[約35万円(1ドル14円として計算、以下同)]の罰金か禁固6カ月の罰則がある。
欧米における感染拡大に伴い、世界各国で海外からの帰国者を中心に、感染数が増加した3月半ばからは、さらに対策が強化されている。香港政府は3月23日には、3月25日から14日間、すべてのトランジットの停止と短期旅行者の入国を拒否する方針を公表。さらに3月25日には、当面、法令で定めた者を除く全世界からの入境者に対して、14日間の強制検疫を実施するとした。
香港島のバーが立ち並ぶ蘭桂坊(ランカイフォン)で複数の感染者が発見されたことなどから、28日から14日間は、飲食店やレストランについて営業条件を厳しく制限する。最大でも定員50%の稼働率まで、1テーブルの5人以上の利用を禁じるなどで、違反した店舗は罰金5万香港ドル(約70万円)および禁固6カ月の対象と、厳しい罰則を設けている。
職場や婚礼、葬儀などを除いて、公共の場での5人以上の集まりについても禁じた。違反者には1人につき罰金2000香港ドル(約2万8000円)が科せられ、起訴された場合は罰金2万5000香港ドル(約35万円)および禁固6カ月の対象となる。
規制も強化される香港だが、現金の補助金支給も次々と決定している。2月26日には、永久居民(永住権保持者)に対して1人あたり1万香港ドル(約14万円)の支給を決定。3月上旬には、レストランの営業許可証の種類に応じて屋台は5000香港ドル(約7万円)、一般レストランは20万香港ドル(約280万円)を支給する支援策も発表した。しかし家賃が高額で、政府への要求度も高い香港では「この支援策だけではまったく不十分だ」とする声も多い。
一方、日本はどうだろうか。現在1日100人以上の感染者が発生し、一部は感染ルートもたどれていないのに、各種規制はあくまで「要請」というお願いベースにとどまる。当然、それでは補償も伴わない。ほかのアジア諸国と比較すると遅きに失した感はかなり否めないが、今からでもできる対応はあるはずだ。
東京五輪の延期も決定し、世界各国が一時的な「鎖国」状態のいま、「お願い」フェーズはすでに過ぎたのではないだろうか。
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