住民の帰還進まぬ「常磐線」利用するのは誰か 全線運転再開後の「未来」はどこにあるのか

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常磐線は特急も走る幹線とはいえ、普通の利用客は以前から高校生を中心とする通学客が主で、それに多少の通勤客が加わるというところだったであろう。住民がいなければ、需要も発生しない。今回の普通列車設定の意味合いは、富岡―浪江間を挟んで、いわき―原ノ町間全域におよぶ、より広域的な流動に対応したものと見たほうがよさそうだ。例えば、原ノ町6時53分発に乗れば、いわきには8時12分に着ける。時間がかかる代行バスでは難しかった通学も可能であろう。

つまりは、鉄道は復旧できても、産業をはじめとする地域の「復興」は、まだこれから。他地域、特に首都・東京からの応援を得つつ進めていく段階にすぎない。富岡―浪江間の大きな需要が見込めないことは、両端の富岡、浪江の両駅が、3月14日より無人化された状況からもうかがえる。夜ノ森、大野、双葉も、無人駅としての再開となった。

貨物列車の運転はいかに?

震災前の常磐線は、明治期に建設された目的でもある、東北本線のバイパスとしての機能もあった。路線距離がやや長いものの、東北本線のような急勾配がないのが利点で、首都圏と東北、北海道を結ぶ長距離貨物列車が運転されており、震災では津波の直撃を受けた列車も発生した。

夜ノ森駅の西口側は、避難指示が解除され、住民が戻りつつある(筆者撮影)
夜ノ森駅では、除染作業により伐採された名物のツツジの再生が進められている(筆者撮影)

しかし、今回の運転再開においては、常磐線いわき以北を通過する貨物列車は設定されなかった。9年間の分断により、完全に東北本線経由の列車体系でまかなえる状態となったことが大きいと思われる。これを受けて、複線化されていた大野―双葉間は単線化され、大野、双葉ともホーム1面、線路1本での運転再開となっている。

ただ、列車がすれ違える構造で復旧された夜ノ森では、長い編成の貨物列車も停車できるよう、駅構内の線路の長さも従来通りにされている。大野、双葉も、需要が見込まれるならば、元の複線には戻せる構造だ。常磐線におけるこうした「簡略化した復旧」の例は、2016年に営業を再開した坂元駅でも見られる。

現時点では、常磐線経由の貨物列車を運転する必要性は薄いだろう。沿線からの発着貨物も見込まれない。しかし、大きな貨物需要に対し、東北本線1本だけでは心許ない面もある。震災からの復興をうたうなら、そちらもまだ生活再建途上にある三陸沿岸などへのルートを確保しておくこともまた、意味があるかもしれない。

土屋 武之 鉄道ジャーナリスト

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つちや たけゆき / Takeyuki Tsuchiya

1965年生まれ。『鉄道ジャーナル』のルポを毎号担当。震災被害を受けた鉄道の取材も精力的に行う。著書に『鉄道の未来予想図』『きっぷのルール ハンドブック』など。

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