住民の帰還進まぬ「常磐線」利用するのは誰か 全線運転再開後の「未来」はどこにあるのか

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一般的に地域の中心都市(この場合はいわき市と、原ノ町駅がある南相馬市)へ朝、各駅から向かい、夕方には反対方向へ帰る、通勤・通学客の流れが鉄道にはある。これは全国どこであっても変わらない。しかし、原発事故の被災地域では、逆に朝、中心都市から向かい、夕方には戻る旅客流動が存在していた。避難指示の全面解除までの期間だけではあるが、「自宅へ通う」あるいは被災地域にある「勤務先へ通う」人々がいたのだ。

双葉駅は駅周辺が特定復興再生拠点区域(復興拠点)に指定され、避難指示が先行して解除された(筆者撮影)

今回の場合、営業を再開した3駅は、いずれも「帰還困難区域」内にあるか、同区域と隣り合っている。福島第一原子力発電所は、大熊町内の北端、双葉町にすぐ接する位置だ。放射能の影響をいちばん受けた地域である大熊、双葉の両町内に3駅は所在する。つまり、一部(夜ノ森駅の西側)を除いて駅周辺には、現時点では住民はいない。

復興に向けて、政府は帰還困難区域の一部を「特定復興再生拠点区域(復興拠点)」に指定し、避難指示の一部を3月4日に先行解除。今後、再び人が住めるように整備する。つまりは、すべてがこれからで、まだ住民が自由に帰ることができる段階には至っていない。

駅周辺には立ち入り禁止区域も

夜ノ森駅の東側と大野駅の周辺は帰還困難区域として住宅などは厳重にフェンスで囲われ、立ち入りが禁止されている。誰でも自由に行動できるのは、駅から通じる町道と大野駅近くにある県立大野病院など、極めて限られたエリアでしかない。

大野駅前は大半がまだ帰還困難区域に指定されている。道路以外は立入禁止(筆者撮影)

双葉駅周辺は特定復興再生拠点区域に指定されたのだが、住民の帰還はまだこれからだ。大野、双葉の両駅と町道は、町内の一部に設定された「避難指示解除準備区域」への”通路”としての役割のみを担う。駅は復興の拠点として、営業を再開したのである。

そのため地元の日常的な利用客は、いわき側で言えば富岡まで。原ノ町側では浪江までしか存在しないと言ってもいい。3月14日に利用した各列車の状況からも、それはうかがえた。けれども、運転再開と同時に、JR東日本は品川・上野―仙台間直通の特急「ひたち」3往復と、富岡―浪江間を通り、いわき―原ノ町間を基本的な運転区間とする普通11往復を設定した。

震災前のいわき―原ノ町間には、特急6往復と普通16往復が運転されていた。これには及ばないものの、それに近い本数が運転されるダイヤになったのだ。今回の運転再開区間をまたいで、例えば東京と南相馬市、相馬市など、広域的な流動を復活させようという意図は、もちろんある。しかし特急は、富岡、浪江のほかに、通勤客など日常的な利用客がいないはずの大野、双葉にも全列車が停車する。

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