住民の帰還進まぬ「常磐線」利用するのは誰か 全線運転再開後の「未来」はどこにあるのか

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こういうダイヤからも、JR東日本、ひいては政府の復興方針が想像できよう。大野は、福島第一原子力発電所の最寄り駅で、震災前も特急が停車し、原発関係のビジネスパーソンの利用が多かった。現在、同原発および、福島第二原子力発電所(最寄り駅は富岡)は、国家的なプロジェクトとして廃炉に取り組んでいるが、そのためには東京との間の人的交流も当然、必要となる。

また、原発関連に限らず、地域の復興のためには地域外、ひいては東京との交流によって、人的資源を送り込む必要があろう。まずは地域の生活インフラからして再建しなければならない。その第一歩が常磐線であり、各駅である。

深夜早朝発着の特急列車はなくなった

被災地域発の需要が今はなくなってしまったことは、特急のダイヤからうかがえる。震災前は早朝5~6時台あるいは8時台に原ノ町―いわき間の主要駅に停車して東京(上野)へ向かい、夕方18時台、そして夜21~22時台にいわき―原ノ町間の主要駅に帰ってくる特急が設定されていた。運転再開後のダイヤでは、この2往復に該当する特急「ひたち」がない。

原発であれなんであれ、被災地域の産業が復興に進みつつあるのなら、東京へのビジネス需要を引き受ける、こうした早朝発深夜着の列車が設定されてしかるべきだ。例えば震災とは関係のない中央本線の新宿行き特急は、始発が松本6時30分発、終電が松本23時49分着となっている。しかし、現在の「ひたち」のダイヤは、東京方面からひたち以北へ行き来する利用客向けになっている。仙台発の上り一番列車は大野11時36分発。下り最終仙台行きは大野18時57分着だ。

大野駅前にある、大熊町生活循環バス。駅と避難指示解除準備区域を結ぶ(筆者撮影)

一方の普通列車も、避難指示解除準備区域への帰還準備を進める住民の利用を見込んでいるものの、駅に着いてから同区域にある自宅への「アクセス」には乏しい。駅前にはタクシーが常駐。駅前発の町営バスも運転を始めたものの、果たしてどれだけの利用があるだろうか。

震災から9年も経つと、避難先での生活再建もある程度、進んだであろう。公共交通機関だけに頼っては生活できないのは、日本各地の常。その中には、自家用車の取得も含まれているに違いない。ならば最初から通行が許されている国道6号線(常磐線の列車代行バスも走っていた)を、自分で運転して帰宅したほうが楽だし、荷物なども運べる。

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