ヤンキー主義の限界が露呈した”橋下発言” 精神科医・斎藤環×歴史学者・與那覇潤(3)

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「日本教」とは「人間教」

與那覇:たぶんいまだと、LINE的コミュニケーションスキルともいえそうですね。欧米産のSNSにはまだ残っていたインテリ臭を完全に抜いたから、一番当たった。

斎藤:再帰的な親密さの相互確認メディアですね。私はそれを「毛づくろい的コミュニケーション」などと呼んでいますが、でも、そのコミュニケーションスキルは企業に入ったりすれば使えないでしょ?

與那覇:いや、むしろ新入社員に求めるのはそのレベルのスキルだけで、あとは言語化以前の「暗黙知」が長期雇用を通じて組織に蓄積されているから、グループワークを通じて身体で覚えさせるというのが日本的経営だったのではないでしょうか。周囲に合わせる協調性さえ持っていれば、他の要素は入社後にいくらでも仕込めると。つまり、人間というものをきわめて均質的に見ている。

『「空気」の研究』で知られる山本七平は、日本人とは「日本教徒」のことであり、その内実は「人間教」だと言っています。人間教とは“人間、裸になればぶっちゃけみな同じだから、わかり合えるはず”という発想のことですね。日本人はそう信じているから、自他の“違い”を明確にしてゆくような、切断的な言葉の使い方はできない。

斎藤:「日本教」のボトムには、やはり「神道」があるような気がします。教義も教祖もなにもない中空構造だけに、あらゆる「信仰」を包摂してしまうメタ宗教的な位置づけですね。昨年式年遷宮を行った伊勢神宮に行ってみたら初詣と見まがう人混みで、「彼らのどこが無宗教か!」という気分になりましたね。神道では、それこそ裸になれば神も人もない。「裸になれば人間同士」という幻想は、それこそ悪しきホンネ主義に通じていますね。ホンネでぶつかれば思いは必ず通じる、という発想も、きわめてヤンキー的です。それこそ橋下徹が沖縄の米軍基地に行ったときに司令官に対して……。

與那覇:「性犯罪を抑えるために、風俗を活用して」と言って問題になりましたよね。

斎藤:ぶっちゃけていえば、「お前らも風俗好きだろ?」みたいなことをやらかしちゃったわけですよね。

與那覇:連続性の言葉で「俺らみんな風俗好きなんだからさぁ、内心ではお前らも好きだろ?」と抱きつきにいったら、一緒にすんなと撥ね飛ばされたわけですね。

斎藤:橋下徹は本音主義でウケた人だから。アメリカ人も本音主義が通用すると思ったら、全然通用しなくて、コケてしまったわけですね。やっぱり理想を語るべき場面と、本音で語るべき場面の使い分けができなかったということが、ヤンキー主義の限界かなという気がします。あの辺がまさに言葉を重視しないことの弊害と言えますね。

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