東村アキコが「お稲荷さん」を本気で描いた理由 「苦もなくできることは誰にでも絶対にある」
例えばボールを好きに投げていた野球選手でも、もっと選手として花を咲かせるためにはフォームの矯正をしますよね。矯正がなくて好き放題やっていると、プロになったときにモノにならなかっただろうなって思います。『かくかくしかじか』に登場する絵画教室の日高先生に出会っていなかったら、自分で好きな絵を描いて個展をやっていたとしても、今のようにプロとして死ぬほど描くという生活は無理だったと思います。あの矯正のターンがあったから今があると思っています。
受験のとき、矯正されていてつらいといっていましたが、やっぱり心の奥底では描くことは楽しかったです。「好きこそものの上手なれ」というのは、悩むことも含まれていると思います。締め切りに追われてつらいこともありますし、0から1を生み出すことに悩むときもあります。
例えばライターさんは、執筆をそんなに苦もなくできますよね。普通の人は、「この文章をこの文字数書け」と言われたら「どうしよう」って思います。テレビ出演の際も、私はタレント業が向いていないと思ってしまいます。まず、テレビ局に行くのがものすごくおっくうで、守衛さんからのチェックから始まり、窓のない控室で待つのも、「だっるい!!」と思い、1分も耐えられないほどイヤなんです。スタジオで、見知らぬスタッフさんがバタバタしている環境も苦手です。
でもタレントさんや芸人さん、女優さんは、この一連のことがまったく苦にならないんだと思います。私の場合は資料を読み込み、漫画を描く作業がまったく苦にならないしとくに頑張らなくてもできるけど、きっとタレントさんはモノを書けといわれたらその一連のことが大変なんだろうなって。
頑張らなくてもできることを仕事にすれば
――普通の仕事にも通じますね。
「なんで君こんなこともできないの?」ってバイト先で言われている若者っていますよね。「なんでピザの具、均等にのせられないの?」みたいな。でもね、ピザの具を均等にのせられなくても、電話の予約をホイホイ受けられたり、バイクでピザを崩さずに運ぶのが上手だったり、いろんな才能があったりもするんですよ。
「適材適所」という言葉がありますが、その分野では思いどおりに仕事ができなくても、ほかの分野で、たとえ“得意”とまでは言わなくても、「なんかできる」という程度の“頑張らなくてもできること”を仕事にして、そこに身を置けばいいと私は考えています。
自分の才能を見つけられず、やりたくない仕事をしながら給料もそんなにもらっていない、苦労している若者に“生きる場所”を見つけてほしいですね。苦もなくできることは、誰にでも絶対にあるので。『稲荷神社のキツネさん』にはそういうメッセージも込めました。
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