NYダウはまだ「下げ止まった」とは言い切れない もはや1日1000ドル超動くのは当たり前に

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その例として、9日のロンドン時間では、「T-BOND先物」に売り物が全くなくなる瞬間があったという(JPモルガン)。

日本の個人投資家や読者にはT-BONDはなじみが薄い商品だと思われるが、長年、アメリカの30年国債(T-BOND)は、世界の債券市場のベンチマークとして、王様のような存在だった。

T-BONDは個人的にも、1993年にCBOT(シカゴ商品取引所)のメンバーになって以来、筆者を育ててくれた「主力商品」であり、その経験をもってして、T-BONDから売り物が消える現象は、想像を絶する流動性の枯渇である。

NYダウは「逆戻り」の可能性も、目先債券は買われすぎか

いずれにしても、ここまで株式市場が「脆弱」(ボラタイル)なのは、これまでの上げが「シュガーハイ」だったことの裏返しだ。

証券会社は、バリュー(価値)の整合性を後から取り繕うが、実際は好調が謡われたアメリカ経済も、大手企業は過剰流動性からのバイバック(買い戻し)で割高にならないように、数字を人工的に造ってきた。

そこで生まれる株高の資産効果が、GDPの70%を占める消費をけん引する以上、FEDは政治的リスクは承知のうえで、そういう時代をサポートしてきた。だが、グローバリゼーションが完成した現在では、QEの繰り出す流動性は、結局、需要よりも供給能力を高めることになり、その結果、インフレは起きず、さらにQEは拡大するという循環をもたらした。

こうなると、「サプライサイド経済」ではもはや庶民は幸せになれない。ドナルド・トランプ大統領は、ほんの数週間前の株価のピーク時(ちょうどダボス会議前後)、「アメリカの中間層の富は、自分が大統領になって47%も増えた」と胸を張った。

だが「アメリカの中間層」とは誰のことだろう。アメリカでは、国民の6割はいざという時の銀行預金残高は400ドル以下である。しかも下層の4割は、持ち家も資産もなく、ペイチェックからペイチェックで(返済期限が来るとクレジットカードなどでまた借りること)、生活は綱渡りである。筆者は個人的に「彼らの資産が47%も上がった」という意味をずっと考えていたが、その答えを見つける前に、アメリカ株は、最終的にトランプ政権のスタート時点(NYダウでは1万9000ドル台)まで逆戻りする可能性が出てきたと思う。

ただし、昨晩10年国債の金利が0.3%台まで低下し、短期金利の誘導目標であるFFレートの先物が「7月までにアメリカがマイナス金利を導入する可能性」を15%も織り込み始めたのはやりすぎだ。米国10年債国債でみれば、いったん利食い局面を迎えているのではないか。

滝澤 伯文 CME・CBOTストラテジスト

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たきざわ おさふみ / Osahumi Takizawa

アメリカ・シカゴ在住。1988年日興證券入社後、1993年日興インターナショナルシカゴ、1997年日興インターナショナルNY本社勤務。その後、1999年米国CITIグループNY本社へ転籍。傘下のソロモンスミスバーニーシカゴに転勤。CBOTの会員に復帰。2002年CITI退社後、オコーナー社、FORTIS(現在のABNアムロ)、HFT最大手Knight証券を経て現在はWEDBUSH傘下で、米国の金融市場、ならびに米国の政治動向を日系大手金融機関と大手ヘッジファンドに提供。市場商品での専門は、米国債先物・オプション 米株先物 VIXなど、シカゴの先物市場商品全般。

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