「神さま」幸之助に異を唱え続けた経営哲学 「22段跳び」の山下俊彦氏が再評価される理由

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1977年1月、松下電器産業の社長交代で会見する松下正治社長(左)と山下俊彦次期社長(東京・千代田区の経団連会館、写真:時事)  
「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称賛され、家電メーカーの売り上げが倍増した1980年代に、「危機の到来」を予見し「日本的経営」に異を唱える経営者がいた。「山下跳び」で知られる松下電器(当時)第3代社長・山下俊彦である。
いま再評価される山下が訴え続けた経営哲学とは何か。近著『神さまとぼく 山下俊彦伝』を上梓した経済ジャーナリストの梅沢正邦氏が論じる。

欧米も「日本的」も超える

昨年の夏のことでした。アメリカのビジネス・ラウンドテーブルの“変心”が話題になりました。ビジネス・ラウンドテーブルはJPモルガンやアマゾン、GMなどそうそうたる大企業が名を連ねる、アメリカ最大級の経済団体です。そのラウンドテーブルが、従来の株主至上主義を改め、「尊厳と敬意の念をもって働く人々を遇する」と宣言したのです。

『神さまとぼく 山下俊彦伝』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

何を今さら、と思ってしまいます。会社において価値を創り出す主体は、「人」しかありません。たとえ株主主権の立場をとるにしても、その株主の求めるものは価値の増大でしょう。そうであれば、価値の創造主体である働く人々に最大のプライオリティーを置くのは当然のことでしょう。

いわゆるアングロサクソン流の経営スタイルは、肝心要のこのことをキレイに忘れ去ってきた。そしてアングロサクソン・スタイルに追随し、ひたすら株価の上昇を追い求めてきたのが、ここ20~30年の、日本の経営者たちの姿でもありました。1990年代以降、日本では非正規雇用が急拡大し、足元、その比率は4割近くに達しています。日本国中で人はタダのコストになってしまった。

このありさまを見たら、いったい、あの人はどう思うだろう、と考え込んでしまいます。あの人、山下俊彦さんです。「山下跳び」「22段跳び」と言えば、ああ、あの山下さん、と思い起こす方もあるでしょう。

今から43年前、下から2番目のヒラ取締役からいきなり松下電器(現在のパナソニック)の社長に就任し、9年間、社長の任にありました。山下さんはこう言いました。

「何回も申し上げますが、私ども企業は社会に貢献するために努力している。そういう企業の努力がそこで働く人々の幸せにつながらないとしたら、それは矛盾です」。山下さんの経営は、人間最優先の経営でした。一人ひとりの人を見つめる経営でした。

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